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大阪地方裁判所 平成3年(ワ)3118号 判決

原告

今西進一郎

外三四名

右原告三五名訴訟代理人弁護士

辻野和一

鍛治川善英

久保田昇

中村恒光

溝上哲也

安永一郎

右辻野和一外五名訴訟復代理人弁護士

杉本啓二

被告

米国学校法人ユナイテッド・ステイツ・インターナショナル・ユニバーシティ(以下「USIU」という。)

右代表者学長代理

ケネス・マクレナン

右訴訟代理人弁護士

八代紀彦

佐伯照道

西垣立也

山口孝司

天野勝介

中島健仁

森本宏

石橋伸子

内藤秀文

山本健司

右八代紀彦訴訟復代理人弁護士

児玉実史

被告

岸和田市

右代表者市長

原曻

右訴訟代理人弁護士

俵正市

重宗次郎

寺内則雄

小川洋一

長山亨

長山淳一

塚本宏明

国谷史朗

平野惠稔

右塚本宏明訴訟復代理人弁護士

松本徹

主文

一  被告USIUは、原告番号1ないし20、同22ないし24の原告らに対し各金一九八万円、同21の原告に対し金一六五万円及び原告番号25ないし35の原告らに対し各金一三二万円並びにいずれもこれに対する平成三年六月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らの被告USIUに対するその余の請求及び被告岸和田市に対する請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、原告らと被告USIUとの間においては、原告らに生じた費用の三分の一を同被告の負担とし、その余は各自の負担とし、原告らと被告岸和田市との間においては、全部原告らの負担とする。

事実及び理由

第一  請求

被告らは、各自、原告番号1ないし24の原告らに対し、各金五五一万円及び原告番号25ないし35の原告らに対し各金三六〇万円並びにいずれもこれに対する平成三年四月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

本件は、原告らが、USIU日本校の誘致は被告らの共同事業によるものであり、また、同校に関する被告USIUの表示及び説明並びに被告岸和田市の宣伝を信頼して同校に入学したところ、その実態が被告らの当初の表示及び説明等と著しく相違するものであったばかりか、遂には同校が閉校するに至ったこと等により、財産的損害及び精神的損害を被ったとして、同校の共同事業者である被告らに対し、民法七〇九条、七一九条に基づき、損害賠償を請求した事案である(なお、原告らは、被告USIUに対し、債務不履行に基づく損害賠償の請求をしている。)。

一  争いのない事実等

1  当事者等

(一) 被告USIUは、米国カリフォルニア州サンディエゴ市に本校を置き、カリフォルニア州法に基づき設立された学校法人である。

右被告は、本件以前に、東京都渋谷区代々木二丁目二三番一号において、英会話の教授及び研究等を目的とするUSIU日本校株式会社(その代表取締役は、甲斐田セツ子(以下「甲斐田」という。)である。以下「USIU東京校」という。)を設立していた(甲一四九、一五〇、二二一)。

(二) 原告番号1ないし20及び22ないし24の原告らは平成元年四月に、同21の原告は平成元年九月に、原告番号25ないし35の原告らは平成二年四月に、それぞれUSIU日本校に入学したものである。

2  被告USIUと被告岸和田市との誘致交渉の概括的経過

被告岸和田市は、大阪府及び社団法人大阪工業会と共に、昭和六二年ころから、同市に産・学・住一体の国際都市を建設する「コスモポリス計画」を推進しており、その一環として同市に外国大学を誘致しようとしていたものである。

被告岸和田市は、被告USIUとの間で、平成元年一月一八日には別紙「USIU大阪校設置についての基本協定」記載の基本協定を、同年五月一五日には別紙「USIU日本校設置についての基本契約」記載の基本契約をそれぞれ締結し(甲一四二、一四三)、USIU日本校設置について合意するに至った。

3  USIU日本校の開校及び閉校

(一) 被告USIUは、平成元年四月二〇日、岸和田市野田町一丁目五番五号において、USIU日本校を開校し、翌二一日から同校の英語集中講座(以下「ESOLコースという。)の授業を開始した(甲八四、八五)。

(二) しかし、被告USIUは、その本校について、平成二年一二月二〇日、米国連邦破産法第一一章(以下「チャプターイレブン」という。)の適用を申請し(甲一二二)、同日本校についても、基本協定及び基本契約上予定していた教養学部(教養課程)、専門学部(専門課程)の設置や学校法人化も実現しないまま、平成三年六月一四日、閉校するに至った(甲三九、四〇、一八三)。

二  争点

1  被告USIUの不法行為責任(原告らの主張)

被告USIUは、故意又は過失により、平成元年度及び同二年度入学生である原告らに対し、後記一三各記載のとおり、同二四各記載の実態と著しく相違する虚偽の表示及び説明を行い、原告らをしてその表示及び説明どおりの教育、施設利用及び資格取得が可能であると誤信させてUSIU日本校に入学させたものであり、また、被告USIUは、財政悪化による倒産の危険があったにもかかわらず、これを故意に隠匿して平成元年度学生募集を行い、同年四月にUSIU日本校を開校して原告番号1ないし24の原告らを入学させ、更に、同年六月には米国の「大学・大学院基準協会」の一つである「西部地区学校・大学協会」(以下「WASC」という。)から、USIU本校の財政悪化を指摘されたにもかかわらず、これを故意に隠匿して平成二年度学生募集を行い、同25ないし35の原告らを入学させ、平成三年六月一四日、同日本校を一方的に閉校して、原告らのそれまでの授業料等の支出を全く無駄なものとしたばかりか、USIU日本校における今後のESOLコース受講はもとより、教養学部(教養課程)の受講、国際経営・経済学部及び国際関係学部の受講及び米国大学の学位(卒業資格)取得の各可能性を奪い、原告らに後記5記載の損害を与えたものである。

(一) 被告USIUの原告番号1ないし24の原告らに対する虚偽の表示及び説明

右原告らは、USIU日本校に入学する際、その平成元年度入学案内等や入学説明会において、被告USIUから、被告USIU全般及び同日本校について次のような表示及び説明を受けた。

(1) 資格等について

被告USIUは、サンディエゴ、ロンドン、メキシコシティ、ナイロビ、ウィーン、西ドイツ(ウィスバーデン)及び日本の七か国にキャンパスを有し、学生は、右各国USIU校間を単位を失うことなく自由に編入し、右各国USIU校においても、大学・大学院基準協会認定の単位及び学位(准学士、学士、修士、博士号)を取得することができ、USIU日本校も米国大学の分校であるから、同校の学生は、海外留学をしなくとも、岸和田のキャンパスにおいて必要単位を取得することにより、米国大学の学位(卒業資格)が授与される。

(2) 教育方法について

① 被告USIUは、「語学コンピュター・ラボプログラム」を開発しており、USIU日本校のカリキュラムは、特に日本人学生がより効果的に英語を話したり、講義を聞き取り、書く力をつけるために作られている。

② ESOLコースは、話す、聞く、書く、読むの各分野ごとに初級・中級・中上級・上級レベルにクラス分けされ、一クラス当たりの学生数は一五ないし二〇名の少人数制である(募集人員一五〇名)。

(3) 教育スタッフについて

① 各国USIU校においても、教授巡回システムにより、学期ごとに本校の教授陣が巡回して教える。

② USIU校の教授は、全て博士号又はこれに準ずる資格を有し、ESOLコースも、ESL/EFL(英語を母国語としない人に対する英語教授法)の資格を有する本校教授陣が指導に当たる。

(4) USIU日本校の今後の展開について

① USIU日本校は、学校法人化を計画中であり、大阪府私学課と話を進めており、すぐにでも実現する。

② USIU日本校においては、平成元年九月には教養学部(教養課程)が、平成三年九月ころまでには国際経営・経済学部及び国際関係学部がそれぞれ設置される。

③ USIU日本校においては、他のUSIU校で学ぶ一〇〇か国以上の学生が同校に編入することにより、日本人学生と海外からの学生とを半々として構成する本格的国際キャンパスとなる。

(5) 顧問について

USIU日本校は、次の著名人を顧問としている。

伊勢芳吉(元ダイハツ工業株式会社社長、大阪府技術協会理事)

千宗室(裏千家家元)

林健太郎(参議院議員、元東京大学学長)

椎貝博美(前筑波大学副学長、教授)

村上和雄(筑波大遺伝子研究所所長)

岡田實(大阪大学名誉教授、元大阪大学学長)

(二) 被告USIU及び同日本校の実態

(1) 資格等について

① 被告USIUは、ウィーン及び西ドイツ(ウィスバーデン)にキャンパスを有していなかったのであるから、右各校へ編入することはできなかった。

② 米国においては、全米六地域にある各地域の「大学・大学院基準協会」が各大学の教育内容及び施設等が右協定の定める設置基準を満たしているかを審査し認定する制度が存し、右認定を受けていない大学は信用のある大学とは認められず、当該大学がその学生に授与した単位及び学位も他の大学には通用しないし、社会的にも評価されないため、右認定を受けることが必要とされ、また、右制度の下においては、大学の本校が右協会の認定を受けていたとしても、その分校には右認定が及ぶものではないから、当該分校についても右協会の認定を別個に受けることが必要とされている。USIU日本校が、その学生にUSIU本校と同価値の学位を授与するためには、右本校の属するWASCから、USIU日本校が分校としての認定を受ける必要があったにもかかわらず、これを受けないまま、USIU本校が、平成元年六月、WASCから財政問題を重点とする運営上の問題を指摘され、同校に対するWASCによる再認定の結論が平成二年一〇月まで留保されることになったため、同日本校も、WASCからUSIU本校の分校としての認定を受けることが不可能となった。

また、USIU日本校にはそもそも学部・学位課程が設置されなかったのであるから、日本校のみにおいて単位を取得することも米国大学の学位(卒業資格)を取得することもできなかった。

(2) 教育方法について

① USIU日本校においては、「語学コンピュター・ラボプログラム」による授業は行われず、カリキュラムも、入学当初から明確に定まっていなかった。

② ESOLコースにおいても、話す、聞く、書く、読むの各分野ごとに初級・中級・中上級・上級レベルにクラス分けされたクラス編成が実施されることもないまま、レベルの違う学生が同じクラスで授業を受けるなどしたため、効果的な授業とはならなかった。

また、USIU日本校は、募集人員を遥かに超える三二四名もの学生を入学させたため、一クラス当たりの学生数は二五名となった(その結果、仮校舎の教室だけでは足りず、一つの教室を半分に分け、二クラスの授業が背中合わせで同時に行われることもあり、騒然として授業にならない有様であった。)。

(3) 教育スタッフについて

① USIU日本校には、本校から派遣された教授は一人もいなかった。

② 平成元年春学期における教員のうち、博士やそれに準ずる修士の資格を有する者(アン・アセリー、フランク・クレイポール及びディビット・モロウ)や英語教授法の資格を有しない者(アン・アサリー、ベリー・アレクサンダー及びフランシス・スベアーズ)がいたばかりか、平成元年春学期における教員は、同年九月までにその全員が退職するという有様であった。

(4) USIU日本校の今後の展開について

① 学校法人化については、実現されることがなかったが、そもそも被告USIUが大阪府私学課と話を進めていた事実すらなかったものであった(学校法人化は、USIU日本校の外国人教師に対する就労ビザ及び同校の外国人学生に対する就労ビザの各発給にとっても必要なものであったが、右各ビザが発給されなかったため、平成元年四月時の教員は、同校を僅か三か月ほどで退職し、外国人学生も同校に編入してくることはなかった。)。

② 平成元年九月に設置されるはずであった教養学部(教養課程)はもとより、平成三年九月ころまでには設置されるはずであった国際経営・経済学部及び国際関係学部も、平成三年六月一四日のUSIU日本校の閉校に至るまでに設置されることはなかった。

③ USIU日本校の閉校により、同校における学生の半数を世界各国からの学生とする本格的国際キャンパスの建設も不可能になった。

(5) 顧問について

前記六名の著名人は、いずれもUSIU日本校の顧問ではなかった。

(三) 被告USIUの原告番号25ないし35の原告に対する虚偽の表示及び説明

右原告らも、USIU日本校に入学する際、その平成二年度入学案内等や入学説明会において、被告USIUから、次のような表示及び説明を受けた。

(1) 資格等について

被告USIUは、サンディエゴ、ヨーロッパ(ロンドン)、メキシコ(メキシコシティ)、アフリカ(ナイロビ)並びに日本(東京及び大阪)の世界主要大陸にキャンパス拠点を有し、学生は、右各国USIU校間を単位を失うことなく自由に編入でき、右各国USIU校においても、大学・大学院基準協会認定の単位及び学位(准学士、学士、修士、博士号)を取得しうるものであり、USIU日本校の学生も、海外留学をしなくとも、岸和田のキャンパスで必要単位を取得することにより、米国大学の学位(卒業資格)が授与される。

(2) 教育方法について

① 被告USIUは、「語学コンピュター・ラボプログラム」を開発しており、USIU日本校のカリキュラムは、特に日本人学生がより効果的に英語を話したり、講義を聞き取り、書く力をつけるために作られている。

② ESOLコースは、話す、聞く、書く、読むの各分野ごとに初級・中級・中上級・上級レベルにクラス分けされる。

(3) 教育スタッフについて

① 各国USIU校においても、教授巡回システムにより、学期ごとに本校の教授陣が巡回して教える。

② USIU校の教授は、全て博士号又はこれに準ずる資格を有する。

(4) USIU日本校の今後の展開について

① USIU日本校は、現在、学校法人化を計画中である。

② USIU日本校には、平成二年四月から教養学部(教養課程)を設置する予定であり、将来、国際経営・経済学部及び国際関係学部の二学部(定員合計五〇〇名)を設置するほか、TESL、経営学の修士課程のコースを設ける。

③ USIU日本校は、学部の増設、大学院の設置等をし、その学生の半数を日本人、残りの半数を世界各国からの学生で構成する国際的な総合大学となる。

(5) 顧問について

USIU日本校は、平成元年度と同じ著名人六名を顧問としている。

(四) 被告USIU及び同日本校の実態

(1) 資格等について

キャンパスの点を除き、前記二(1)記載の平成元年度における実態と同じ。

(2) 教育方法について

① 前記二(2)①記載の平成元年度における実態と同じ。

② クラス分けについて、ESOLコースの「話す」分野のクラスは設けられなかった。

(3) 教育スタッフについて

① 前記二(3)①記載の平成元年度における実態と同じ。

② 平成二年度のUSIU日本校の教員一三名中、博士号を有する者はおらず、修士の資格を有する者も七名だけであった。

また、右一三名の教員のうち、ESOL教授法や英語教授法の資格を有するのは二名(デニス・インクロナット及びレイモンド・ヒックス)のみであって、かつ、ESOL教師としての経験を全く有しない者が八名もいた。

(4) USIU日本校の今後の展開について

① 前記二(4)①記載の平成元年度における実態と同じ。

② 平成二年四月に設置されるはずであった教養学部(教養課程)はもとより、将来設置されるはずであった国際経営・経済学部及び国際関係学部も設置されることはなかった。

③ 前記二(4)③記載の平成元年度の実態と同じ。

(5) 顧問について

前記二(5)記載の平成元年度における実態と同じ。

(被告USIUの主張)

(一) 資格等について

(1) キャンパスについて、被告USIUは、ウィーン及び西ドイツ(ウィスバーデン)には同被告のエクステンション・コースを設置していた。

(2) 学部・学位課程の設置について、被告USIUは、日本校の学生募集時に「学部を設置の予定」などとして、同校に学部・学位課程が存在しないことを明確に表示及び説明しているのであるから、原告ら主張のように、USIU日本校においても、大学・大学院基準協会認定の単位及び学位を取得することができるかのように表示及び説明したことはない。

(二) 教育方法について

(1) USIU日本校のカリキュラムについて、開校当初に多少の混乱があったにすぎない。

(2) クラス分けについて、被告USIUが、同日本校のESOLコースを合計一六種類にクラス分けする旨を表示及び説明したことはない。

(3) 学生数等について、被告USIUが、平成元年度募集人員として表示及び説明した人数よれも相当多い学生の入学を認めたが、これにより教室が騒然としたというのは、せいぜい二、三日のことであり、一時的な現象であったにすぎない。

(三) 教育スタッフについて

(1)① 教授巡回システムは、入学案内中の「学部」紹介欄にその説明があることから明らかなように、教養学部(教養課程)及び専門学部についての制度であるのに対し、ESOLコースの教育スタッフについては、入学案内中に「授業はUSIUサンディエゴ本校で資格認定を受けた経験豊富なネイティブスピーカーの講師陣によって行われます」と記載してあるように、その旨を明確に表示及び説明している。

② 「USIU本校の教授陣」というのも、同本校が責任をもってその資格を審査し、スタッフとするという意味であり、本校の現職教員という意味ではなく、実質的にも、USIU日本校スタッフとして新たに採用された教員か、一旦本校スタッフとして採用された教員かは形式的な違いにすぎず、本校の教員と何ら変わらない(常識的に考えても、サンディエゴに生活の本拠を有する教育スタッフの多数の者が一時的に日本校に異動することは、本校の教育活動に支障を来たすことになるのであるから、実現不可能である。)。

③ 平成元年四月開校当時のUSIU日本校教育スタッフ中には、ケン・オートン校長(本校副学長)以外に本校の現職スタッフは存しなかったが、USIU日本校の教授陣の中には、USIU本校から直接派遣された者も八、九名いたばかりか、その人数もその後増加している。

(2)① 教授の資格(学位及び英語教授法)についても、学生募集時の表示及び説明と実態との間に若干の齟齬は存したが、その程度は小さく、将来的に解消していく性質のものであり、実際の教授のレベルも高かったことからすれば、不法行為を構成するほどのものではない(USIU日本校の中では比較的上級レベルに属する岩田富美子においても、教授のレベルに全く不満は持っていなかった。)。

② 平成元年四月におけるUSIU日本校教育スタッフが、同年九月に一新されたのも、日米の学期制度の差と、被告USIUの期待する人材を集めるために、これらの者との契約を四か月契約とし、その再契約の可能性が不明確であったためにすぎない。

(四) USIU日本校の今後の展開について

(1) 学校法人化について、被告USIUは、被告岸和田市及び大阪府との間で鋭意、協議及び調整を進めていたものであり、これを実現できないことが学生募集時には予見しえなかった。

(2) 学部・学位課程の設置について、被告USIUは、学部の設置を明確に将来の予定として表示及び説明していたものであり、また、教養学部(教養課程)を設置することができなかった点については、次のような事情があった。

① 被告USIUは、本校はもとより海外校のうちヨーロッパ、メキシコ及びナイロビ校において、共通の一貫したカリキュラムを持ち、英語を唯一の共通語として授業を行っているのに対し、同日本校の入学生の募集は、当然のことながら、日本人学生を対象とするものであり、その入学試験時には、右大学教育の授業をフォローしうるレベルの英語力を有する者が極めて少ないのが実情であったため、USIU日本校においては、ESOLコースを設けて英語能力を養成し、ESOL一〇〇を履修、合格(その合格レベルは、TOEFL五五〇にほぼ対応する。)して初めて教養学部(教養課程)への進級を認めることにしたものであり、同校の開校時においては、次のESOLコースが開設されていた(なお、ESOLコースにおいては、読む、聞く、書くの能力が重視され、英会話能力は必ずしも必要とされていないので、英会話能力と次の各レベルは直ちに対応するものではない。)。

ESOL 九〇

(初級、基礎英語からやり直すコース)

ESOL 九一

(初級の上、高校英語レベルを徹底的に再履修することから始めるコース)

ESOL 九四

(中級、高校卒業レベルを完全に履修した者が、より高度な英語力を身につけようとするコース)

ESOL 九七

(中上級、英語検定二級から準一級の実力を有する者が勉学するコース)

ESOL一〇〇

(上級、英語検定準一級から一級の実力を有する者が勉学するコース)

そして、被告USIUとしては、入学生が各ESOLコースに均等に分布し、ESOL一〇〇にも三〇名程度の該当者がいれば、一学期間の勉学により、少なくともその三分の一(一〇名)は、教養学部(教養課程)に進学しうる能力を有するに至るであろうと予想し、かつ、その人数であっても、学部コースを開設することを予定して、これを表示及び説明していたものであるが、当初の予想に反し、USIU日本校の平成元年度入学生の英語能力は、ESOL九一ないし九四が大半を占め、ESOL九七が二二名、ESOL一〇〇に達している者は皆無というものであって、ESOL九七に在籍する学生が一学期間履修したとしても、教養学部(教養課程)へ進学しうる能力を有するに至るとは考えられなかったため、平成元年九月の開設予定をやむを得ず変更したものであった(平成元年五月に締結した基本契約においても、既に学部コース開設を平成二年四月と変更している。)。

② 平成元年度及び同二年度の各学生募集時において、USIU日本校が独自にWASCの基準を満たしさえすれば、その時点でWASC認定を受けることは可能であったのであるから、被告USIUには、WASC認定の学部開設の予定が実現しないであろうことにつき故意過失はなく(特に平成元年度においては、仮に原告ら主張を前提としても、その募集時に教養学部(教養課程)の設置が当分の間実現できないことは予見しえなかったものである。)、更に、被告USIUは、日本校学生の教養学部進学資格者が同本校で勉学することができるように代替措置を採っている。

③ 専門学部の設置や海外校からの外国人学生編入についても、被告USIUは、将来の予定であることを明確に表示及び説明しており、また、前記②同様の理由により、学生募集時には、その実現できないことが予見しえなかったものである。

(五) 顧問について

入学案内記載の著名人がUSIU日本校の顧問に就任していなかったとしても、原告らの同校入学の動機にほとんど影響を与えなかったものであるから、この点に関する被告USIUの表示及び説明と実態との齟齬は、不法行為を構成するものではない。

2  被告USIUの債務不履行責任

(原告らの主張)

(一) 原告らが被告USIUとの間に締結した教育契約の内容

原告番号1ないし24の原告及び同25ないし35の原告らは、USIU日本校に入学する際、被告USIUから、その教育内容や施設等について、それぞれ前記1一三各記載の表示及び説明を受けたものであるから、右各表示及び説明どおりの教育実施、施設利用を目的とする教育契約をそれぞれ締結したものであり、また、右教育契約は、原告らがその必要単位を履修し卒業するまではUSIU日本校が学校として存続することを契約内容としていたものである。

(二) 被告USIU及び同日本校の実態

(1) ところが、被告USIU及び同日本校の実態は、前記1二四各記載のとおりであったのであるから、平成元年度及び同二年度の各教育契約のいずれにおいても、被告USIUには、その表示及び説明と相違する部分につき、債務不履行がある。

(2) 更に、USIU日本校は、平成三年六月一四日に閉校され、学校として存続しなくなったのであるから、この点についても、債務不履行がある。

(被告USIUの主張)

(一) 前記1(被告USIUの主張)において、表示及び説明と実態との齟齬を否認する部分については、いずれも債務不履行はなく、右齟齬を認める部分についても、いずれも債務不履行を構成するほどのものではない。

(二) 被告USIUは、国際間編入制度を有し、海外校における勉学、卒業が可能であるところ、USIU日本校においては、現に海外校への編入を希望していた学生が多数存し、そのような希望を持つ学生にとっては、同校が卒業まで存続することは必ずしも必要ではないのであるから、USIU日本校が学生らの卒業まで存続することは契約内容とはなっていない。

3  被告岸和田市の不法行為責任(原告らの主張)

USIU日本校の誘致は、被告USIUと被告岸和田市との共同事業であるから、被告岸和田市には、その共同事業者として、次のような義務があったのに、いずれもこれを怠った(原告らの縷々主張するところは、次の六点に集約されるものと解される。)。

(一) 教員内容に関する調査義務違反

米国大学の分校誘致という教育事業を開始するに際しては、教育の質を最優先すべきであるところ、USIU日本校においては、ESOLコース開講がその学生に対する教育の開始に当たるのであるから、被告岸和田市としては、同校に入学する学生が資格を有する教授陣のもとで、質の高い授業を受講し、かつ、十分な教育設備を利用しうる状況にあるかを調査すべきであったのに、これを怠り、共同事業の準備・調査期間を十分にとることもないまま、その開校を平成元年四月と決定し、また、USIU日本校当初の募集人員が一五〇名であったのに、三二四名という仮校舎の規模及び教室数に照らしても余りにも過剰な数の学生の入学許可を放置した。

(二) 財政的基盤に関する調査義務違反

USIU日本校の誘致は、被告岸和田市が被告USIUに対し恒久的施設用地さえ提供すれば、それ以外の財政的負担は共同事業者である被告USIUが全て負担することを前提としていたものであり、また、USIU本校は、右誘致以前に既に経営が悪化し、資金調達能力がなく財政難の状況にあったのであるから、被告岸和田市としては、その共同事業者である被告USIUが右財政的負担に耐えうる財政的基盤(資金調達の可能性)を有するかについて調査すべきであったのに、これを怠り、被告USIU側の資産と負債の割合が五対一である旨の報告を漫然と信用してしまった。

(三) 暫定校としての開校回避義務違反

USIU日本校の暫定校としての開校は、共同事業者である被告岸和田市と被告USIUとの合意により決定されたものであるが、本来、外国大学の日本校を誘致する場合、まず法人を設立し、その設立された法人が主体となって、学生募集等の開校の準備を行わなければ、組織や体制の不十分さからその経営責任や運営責任が不明確になる等の問題が生ずるのであるから、被告岸和田市としては、暫定校としての開校をみあわせるべきであったのに、これを怠り、被告USIUとの間で同被告が直接経営責任を負う旨の約束があったことから、その経営には問題がなく、また、被告USIUが大阪府や大阪工業会からの紹介であったことから、これらの支援が受けられるものと安易に考え、外国大学日本校開校のブームに便乗して暫定校としての開校を決定した。

(四) 学校法人化に関する調査協議等義務違反

被告岸和田市は、被告USIUとの基本協定及び基本契約において、USIU日本校の学校法人化を合意し、特に、基本協定においては、USIU日本校は平成元年九月までに学校教育法に基づき学校法人(その形態は、大阪府知事認可の専修学校又は各種学校である。)化されると定めていたのであるから、被告岸和田市としては、学校法人の設置認可基準等の法規を調査し、学校法人化のための助言、協議を行うべきであったのに、これを怠り、右法規に関する知識を有しない被告USIUにこれを任せていた。

(五) 開校後の資産管理に関する指導監督義務違反

被告岸和田市は、基本契約において、USIU日本校が学校法人化されるまでの間、同契約の目的に反する運営がなされていると認められる場合は、USIU日本校に関する活動、運営状況、業務、会計の報告を求めるとともに、被告岸和田市との協議を要求し、同校に関する管理、運営について必要な変更をすべき旨を勧告することができる旨定めていたものであるが、前記四記載のような問題のある暫定校の開校を共同事業者として自ら決定したのであるから、同被告としては、同校が学校法人化されるまでの間の資産管理について次のような義務があった(公の支配に属する教育事業に対する公金支出の観点からも、右同様の義務があった。)のに、これをいずれも怠った。

(1) USIU日本校の経理については、USIU東京校の事務局長であった甲斐田がこれを兼任していたものであるが、同女は、USIU日本校と同東京校の経理を峻別することなく処理していたのであるから、被告岸和田市としては、USIU日本校の経理状況を調査し、その報告を受けるなどして、両校の経理を峻別してUSIU日本校の資産を管理するように、指導監督すべき義務があったのに、これを怠った。

(2) USIU日本校においては、入学生から集めた金員をUSIU本校へ送金していたものであるが、右金員は、将来のUSIU日本校のために活用されるべきものであるから、被告岸和田市としては、右送金の事実を知った平成元年秋ころの時点で、これを調査し、その返還を求める等の措置をとるべきであったのに、これを怠った。

(六) USIU日本校の宣伝による誘致に係る事業計画の実現の保証責任

被告岸和田市は、USIU日本校開校について、同被告発行の広報「きしわだ」、被告岸和田市市長の「ごあいさつ」と題する書面及びマスコミ発表により、USIU日本校が信用するに足りる立派な大学であり、被告岸和田市が積極的にその誘致を推進していく旨の宣伝を行ったものであるから、これらの宣伝を通じて、同校に入学する学生らに、共同事業者として誘致に係る事業計画の実現を約束し、保証したものである。

(被告岸和田市の主張)

誘致とは、あくまでも一方的な勧誘行為にすぎず、共同事業とは全く異なるものであって、被告USIUが、USIU日本校の事業主体であることは、基本協定及び基本契約に照らし、明白であるが、次のような事実に照らしても、被告岸和田市は、本件誘致に際し、十分な調査、検討を行ったものである。

(一) 全体について

(1) 昭和六〇年に大阪府を中心とする「コスモポリス計画」が持ち上がり、大阪府、大阪工業会及び南大阪経済振興懇話会も岸和田市に米国大学を誘致しようとする動きがあり、大阪府職員が昭和六二年一一月にUSIU本校を視察していたことから、被告岸和田市も、本件誘致に際し、右視察時に入手された情報の提供を受け、市議会コスモポリス懇話会に大阪府大藤理事や同府商工部職員を招き、被告USIUとの交渉経過などを聴取して理解を進めた。

(2) 昭和六三年一〇月には市議会コスモポリス地域整備特別委員会が愛知県小牧市及び新潟県中条町を訪問して、同種事例を調査した。

(3) 昭和六三年一一月には、被告岸和田市は、USIU本校へ視察団を派遣した。

(二) USIU日本校の教育内容について

(1) ESOLコースの教育内容等学校運営については、あくまでも被告USIUの責任において実施されるべきものであるが、同被告は、基本協定及び基本契約上の同日本校設置の趣旨に沿って、入学生の能力等を踏まえ、現実に則した対応をしている。

(2) 入学生の募集人員については、新設校のため、入学辞退者の予想が困難であり、結果的に募集人員を超える入学者数となったものにすぎない。

また、その開校時期についても、USIU日本校は、学校法人化を前提とするものであるから、右法人化の際の審査によるチェックがなされる予定の下に、日本の学期制度に合致するようにしたものであり、調査検討を行わなかったわけではない。

(三) 被告USIUの財政的基盤について

被告岸和田市は、次のような調査を行い、被告USIUがアメリカにおける一流校であり、歴史、教育内容及び経営基盤に問題がないと信頼するに至ったものであり、右以上に調査の必要性を基礎付けるような客観的事情もなかった。

(1) 被告岸和田市は、被告USIU(ラスト学長)から、クレサップ・パジェットアンドマコーマック会計事務所の資料に基づき、被告USIUの資産はその負債の五倍はある旨の説明を受けた。

(2) 被告岸和田市は、大阪府から提供を受けたバロン社ピーターソンズ社などの大学情報誌により、アメリカにおける被告USIUの位置付け及び評価等を調査検討した。

(四) 学校法人化について

USIU日本校の学校法人化は、基本協定及び基本契約上、被告USIUの責任であることは明白であるから、学校法人化の不成功又はその遅延については、被告岸和田市にその責任はない。

また、学校法人化の成否は、私学審議会を経て、最終的には府知事の決するところではあるが、被告岸和田市は、この点につき、被告USIU、大阪府商工部及び大阪府私学課と協議を重ねたり、被告USIUにできるかぎりの助言を行っている(もっとも、前記協議において、見解の相違により、学校法人化の手続に若干時間を要することがあったが、平成二年七月二六日には、認可申請の事前協議書を大阪府私学課へ提出し、私学審議会の議を得るところまで進行していたのであるから、学校法人化については、ほぼ問題のない状況であり、平成三年二月二六日、右事前協議書の提出が撤回されたのは、専ら被告USIU側の事情によるにすぎない。)。

(五) 暫定校としての開校について

暫定校の開設は、基本協定において既に規定されていたことからも明らかなように、既定の方針であったにすぎない。

(六) 資産管理について

USIU日本校の設置主体はUSIU本校であるから、同日本校の経営及び会計処理は、全てUSIU本校が行うべきものであって、被告岸和田市が関与しうるものではないが(なお、将来のUSIU日本校の学校法人化の審査に当たっては、USIU本校による財政的支出のチェックがなされることは当然である。)、右の点をひとまず措くとしても、被告岸和田市は、基本契約の趣旨に則り、被告USIU側から必要な報告を受けたり、同被告に対する協議や申し入れ等を行っているし、特に、右資金を将来の日本校のために活用できるように助言していた。

また、公金支出の観点についても、判例上、「公の支配」の意義は緩やかに解されているのであるから、被告岸和田市は、これに従って、被告USIUに対し、前記のとおり、必要な報告を受けたり、同被告に対する協議や申し入れ等を行っている。

(七) USIU日本校の宣伝について

広報「きしわだ」については、被告岸和田市は、広報発行規程に基づき、市民への情報提供としてUSIU日本校誘致を広報誌に掲載したにすぎず、右発行規程の性格上、また、その記事内容自体から明らかなように、市民に対し、直接、誘致の成功を保証するものではないし、岸和田市以外に居住する学生全てが右広報誌を見ているとは限らない。

市長の「ごあいさつ」と題する書面も、被告USIU岸和田市のUSIU誘致に伴う儀礼的な挨拶に過ぎないものであるから、これに基づいて個別具体的に学生を誘致したものとはいえない。

マスコミ発表については、被告岸和田市は、被告USIUとの間で締結した基本協定に基づき、右事実を発表したものにすぎず、宣伝を行ったものではない。

4  被告らの共同不法行為責任

(原告らの主張)

(一) 民法七一九条一項前段

被告岸和田市は、コスモポリス計画という行政上の施策の推進の一環としてUSIU日本校の開校及び学生の募集並びにその管理運営等について積極的に関与、支援し、被告USIUも、被告岸和田市の右支援を利用し、同日本校の開校及び運営を行ってきたものであり、両被告には、密接不可分な相互利用の関係がある上、基本協定及び基本契約という主観的なつながりも存するのであるから、強い関連共同性が存する。

仮にそうでないとしても、被告岸和田市は、USIU日本校の開校及び学生の募集を積極的に支援した上、開校後も学校法人化に向けて共同作業を実施してきたものであり、両被告は、社会通念上一体として行動していたと評価しうるのであるから、両被告には共同不法行為者としての関連共同性が存する。

(二) 民法七一九条二項

仮に右(一)の共同不法行為が成立しないとしても、被告岸和田市は、被告USIUを積極的に誘致して開校の意思決定をさせ、また、種々の助言、助力を行って前記1記載の被告USIUの不法行為の実行を容易ならしめたものであるから、これに対する教唆及び幇助が存する。

(被告岸和田市の主張)

(一) 被告岸和田市と被告USIUとの間に相互利用の関係はなく、USIU日本校の学生の募集、学校の管理運営等は、すべて被告USIUの判断と責任において行われ。両被告の間に、資本的経済的結合関係はもとより、人的組織的結合関係も認められないのであるから、社会通念上一体を有する行為も存しない。

(二) 被告岸和田市の教唆及び幇助は存しないし、その故意又は過失もない。

(被告USIUの主張)

被告岸和田市と被告USIUは、誘致者・被誘致者の関係にすぎないのであるから、共同不法行為責任を認める根拠は存せず、その余については、被告岸和田市の主張を援用する。

5  損害

(原告らの主張)

(一) 原告番号1ないし24の各原告(原告一人当たり)合計五五一万円

(1) 受験料 二万円

(2) 入学金 三〇万円

(3) 授業料 小計一六九万円

平成元年度分 八五万円

平成二年度分 八四万円

(4) 慰謝料(前記(1)ないし(3)記載以外のテキスト代、通学のための定期代及び下宿代等の財産的損害を含む包括慰藉料) 三〇〇万円

(5) 弁護士費用 五〇万円

(二) 原告番号25ないし35の各原告(原告一人当たり) 合計三六〇万円

(1) 受験料 二万円

(2) 入学金 三〇万円

(3) 授業料(平成二年度分のみ)

九五万円

(4) 慰謝料(前記一(4)記載と同じ包括慰藉料) 二〇〇万円

(5) 弁護士費用 三三万円

(被告USIUの主張)

(一) 受験料、入学金及び授業料について

受験料は、受験の結果如何にかかわらず、入学試験を受けることの対価であり、入学金も、入学そのものの対価であるところ、原告らは、いずれも被告USIU日本校の入学試験を受験し、同校に入学したのであるから、右受験料及び入学金をその損害として請求することはできない。

授業料も、原告らは、その在学中に一定のレベルを保った英語教育を受けたのであるから(仮に、被告USIUに債務不履行責任及び不法行為責任があったとしても)、右利益を享受した限度で損益相殺が行われるべきである。

(二) 慰藉料について

(1) 原告らのESOLコースの修了状況に照らすと、教養学部(教養課程)が設置されても、進学することができなかった原告が相当数存在するのであるから、教養学部(教養課程)の進学可能性はもとより、専門学部(専門課程)の進学可能性が侵害されたとはいい難い。

(2) 被告USIU(及び被告岸和田市)は、USIU日本校閉校に際し、その学生らが同校での勉学の結果を生かしてUSIU海外校や他の米国大学等に編入又は転入できるように種々の方策を採ったにもかかわらず、原告らは、これらの方策を自ら拒絶してしまったものであるから、原告らにも損害の拡大を防止しなかった落度が認められるという意味で、右の点について過失相殺が行われるべきである。

(被告岸和田市の主張)

(一) 授業料等について

被告USIUは、原告らとの教育契約に基づき、現実に教育の提供を行っているのであるから、原告らに、この点に関する損害は存しない。

また、原告らの中には、教養学部に進学しうる能力を有しない学生も相当数いたのであるから、教養学部への進学を前提とする損害の主張は、その前提を欠き、失当である。

(二) 慰藉料について

テキスト代、通学のための定期代及び下宿代等については、原告らにおいて既にその価値を享受しているのであるから、そもそも財産的損害とはいえず、他大学の転校や卒業年次の遅れ等の精神的苦痛も、回復し難い特別のものとは認められないのであるから、精神的損害ともいえない。

第三  被告USIUとの間における国際裁判管轄等に対する判断

一  本件は、日本人が外国法人に対して提起した損害賠償請求訴訟であるが、国際裁判管轄については、当事者間の公平、裁判の適正・迅速を期するという理念により条理に従って決定するのが相当であるところ(最高裁昭和五五年オ第一三〇号同五六年一〇月一六日第二小法廷判決・民集三五巻七号一二二四頁)、被告USIUは、カリフォルニア州法に準拠して設立され、同州内にその本校を有する学校法人ではあるが、大阪府岸和田市野田町一丁目五番五号にその「営業所」(民訴法四条)ともいうべきUSIU日本校を設置していたものであり、また、原告らは、同校において被告USIUが実施した教育についての損害賠償を請求するものであるから、右被告をわが国の裁判権に服させるのが相当である。

また、その準拠法は、不法行為については法例一一条一項、債務不履行については法例七条一項により、いずれも日本法によることになる。

二  なお、被告USIUは、日本にその資産を有しない同被告についてチャプターイレブンの手続が開始された以上、その当事者適格が失われる旨の主張を維持しているとも解されるので、この点につき判断するに、証拠(甲一五七ないし一六二)によれば、同被告は日本国内にも財産を有していることが認められるので、右主張はその前提を欠くものであり、また、そもそも米国におけるチャプターイレブンの手続が日本においてその効力を有するものでもないから(破産法三条二項、会社更生法四条二項参照)、結局、被告USIUの前記主張は、採用することができない。

第四  争点1(被告USIUの不法行為責任)及び同2(同被告の債務不履行責任)に対する判断

一  前記争いのない事実等に証拠(後掲各書証、証人今西洋子)及び弁論の全趣旨を総合すれば、平成元年度入学生である原告番号1ないし24の原告らについて、次の事実が認められる。

1  被告USIUの平成元年度入学生に対する表示及び説明

(一) 被告USIUは、昭和六三年から、USIU日本校入学希望者に対し、USIUに関する入学案内(甲四八。以下、その該当頁数のみを記載する。)を配付していたものであるが、その概要は次のとおりであった。

(1) 資格等について(2、5、10頁等)

① 被告USIUは、サンディエゴ(本校)、ロンドン、メキシコシティ、ナイロビ、ウィーン、西ドイツ(ウィスバーデン)及び日本の七か国にキャンパスを有し、学生は、右各国USIU校間を単位を失うことなく自由に編入でき、右各国USIU校においても、大学・大学院基準協会許可の単位及び学位(准学士、学士、修士、博士号)が授与される。

② 被告USIUは、米国大学基準協会の認可を受けているから、他の全ての米国大学への単位互換や転入が可能である。

③ USIU日本校の教育プログラムは、次のとおりである(別紙「入学から卒業までのフローチャート」参照)。

USIU日本校の入学希望者はEPTテスト(英語力判定テスト)を受け、入学判定がなされた後、ESOLコースに進む。

ESOLコースを修了すると、一定の基準(G.P.A.高校成績評定)により、教養学部(一般課程・学位課程(一般課程は、USIU日本校だけに設置された二年間の課程であり、一年次と二年次の学期末の編入判定で一定以上の成績と認められた学生が学位課程に進むことができる。))に進むことになる。

学位課程に進んだ学生は、修了後(二年)は、学部三年生となり、理系・文系のいずれかから専攻を決め、専門課程に進み、これが修了すると、USIUの学位を取得して卒業する。

④ USIU日本校の学生が海外校に編入するには、次の条件が必要である。

ⅰ ESOL学期末のEPTテスト(進級判定)で一定レベルと判定された場合は、サンディエゴ本校、ヨーロッパ校のESOLコースに編入することができる。

ⅱ 入学時の入学判定でEPT合格(TOEFL五五〇点以上が目安)、高校成績評定が3.5以上である場合は、直ちに各国USIU校の学位課程に編入することができる。

(2) 教育方法について(3、4、11頁)

① 被告USIUは、「語学コンピュター・ラボプログラム」を開発しており、USIU日本校のカリキュラムは、特に日本人学生がより効果的に英語を話したり、講義を聞き取り、書く力をつくるために作られている(USIU最新語学学習であるコンピュター・システムは、コンピュター・ランゲージ・ラボ(語学学習装置)用に開発されてきた画期的システムであり、例えば、学生が外国語を発音すると、それがコンピュターのスクリーンにビジュアル化され、自動的に、教師の正しい発音の映像と比較され、直ちに矯正される。)。

② ESOLコースは、話す、聞く、書く、読むの各分野ごとに初級・中級・中上級・上級レベルにクラス分けされ(「話す」に関するクラスについては右四つのレベルが例示されている。なお、入学試験に際し行われる「英語」の試験は、聞く、書く、読む及び文法の能力判定テストであって、レベル分けを目的とするものであり、合否のためではない。)、右各レベルのコース内容は次のとおりであるが、初級でスタートした学生であっても、毎学期一レベルずつ進級していけば、四学期でESOLコースを修了し、学部への進級が可能であり、年四学期制のUSIU海外校で履修すれば、一年間で学部への進級が可能となる。更に、ESOLコース修了に要する時間としても、日本の平均的高卒者一五名がESOLコースに入学した場合のデーターによれば、前期で二、三名、後期で計約一二、三名の者がEPTテストに合格する。

レベル コース内容

初級 Eng 九〇 英語入門

Eng 九一 初級英文法・英作

Eng 九二 初級リスニング・スピーキング

Eng 九三 初級リーディング

中級 Eng 九四 中級英文法・英作

Eng 九五 中級リスニング・スピーキング

Eng 九六 中級リーディング

中上級 Eng 九七 中上級英文法・英作

Eng 九八 中上級リスニング・スピーキング

Eng 九九 中上級リーディング

上級 Eng 一〇〇A上級英文法・英作

Eng 一〇〇B上級リスニング・スピーキング

Eng 一〇〇C上級リーディング

(3) 教育スタッフについて(2、11頁)

① USIU日本校の特色としては、被告USIUは、教授巡回システム(学期毎にUSIU本校の教授陣が各校を巡回し、各USIU校を教えるシステム)を採用し、USIU日本校の水準を本校のレベルに保つ。

② USIUの教授陣は、全て博士号又はこれに準ずる資格を有し、ESOLコースの授業も、USIU本校において資格を認定された経験豊富な講師陣(ネイティブピーカー)により行われる。

(4) USIU日本校の今後の展開について(8頁)

① 現在、学校法人化を計画している。

② 「国際経営・経済学部、国際関係学部」の二学部(定員合計五〇〇名)を設置するほか、TESL、経営学の修士課程のコースを設ける予定であり、平成五年(一九九三年)には、学部増設、大学院の設置等を行う。

③ その学生の半数を日本人、残りの半分を世界各国からの学生で構成するインターナショナル・キャンパス的な総合大学をめざす。

(5) 顧問ついて(17頁)

USIU日本校の顧問としては、次の者が就任しているとされ、うち村上和雄については、その推薦文まで掲載されていた。

伊勢芳吉(USIU理事、元ダイハツ工業株式会社社長、大阪府技術協会理事)

千宗室(裏千家家元)

林健太郎(参議院議員、元東京大学学長)

椎貝博美(前筑波大学副学長、教授)

村上和雄(筑波大遺伝子研究所所長)

岡田實(大阪大学名誉教授、元大阪大学学長)

(二) また、被告USIUは、平成元年度USIU日本校入学希望者に対し、別紙「アジアの拠点としての米国国際大学日本校、大阪府岸和田市に開校」(甲四九)及び別紙「日本で初めての国際間編入システムをもった国際大学日本校岸和田に開校」(甲五〇)と題する各書面を配付していた(なお、被告USIUが、平成元年度入学出願者に対して配付した入学校に関する選択通知書(甲七四)には、USIU日本校及び東京校のいずれも入学希望者が定員に達すれば締め切る旨の記載があるものの、「一九八九年度入学要項」(甲四七)及び前記入学案内(甲四八)中の入試要項欄には、募集人員は推薦入学六〇名及び一般入学一四〇名、修業年限はカレッジ二年との記載がある。これに対し、その配付時期は明確ではないものの、「USIUの特色」と題する書面(甲六七)には、ESOLコースは全ての入学希望者が入学することができる旨の記載がある。)。

(三)(1) 平成元年度入学生であった岩田富美子も、平成元年二月実施の被告USIUの受験説明会において、同被告の職員甲斐田から、基本的には前記入学案内(甲四八)等に沿った説明を受けたほか、次のような説明も受けていた(甲一六三、二二六、二四一ないし二四三)。

① USIU本校の教授が同日本校のESOLコースを担当するために派遣される(USIU日本校の業務に携わっていた山本実も、被告USIU側から、同校についてはサンディエゴ本校から教師を送ってくる旨の説明を受けていた。)。

② 教養課程は平成元年九月から開き、平成元年度入学生に限り、ESOL九七のレベルに属する学生であっても、実力のある者は、教養課程に進学することができる。

③ USIU日本校の学校法人化は現在申請中であって、すぐにでも実現する。

(2) また、原告番号1の原告やその父兄の一人である今西洋子も、右岩田同様に、次のような説明を受けていた(証人今西洋子)。

① ESOL九七を修了すれば、学部へ進学することができる。

② ESOLコースは一年間で修了することが十分可能である。

③ USIU日本校は、一年以内に学校法人化する。

右のうち、学校法人化に関する認定について、被告USIUの職員である甲斐田や山本は、当初、入学志願者等からの学生募集に関する問い合わせの電話において、その事実がないのに、大阪府私学課と学校法人化について話を進めている最中であるとか、右手続の申請中である旨返答していたことにつき、同課から、虚偽の内容の説明をしないようにと指導を受けたため、以後、法人化に向けて計画中で、そのための準備を進めているとの内容に説明を変更した旨供述するが(甲二二〇、二四三)、仮に、右指導の事実が認められるとしても、被告USIUにおいて、学校法人化の実現は、学生の安心感につながり、多数の入学者を見込める点で、有力な宣伝材料の一つとして考えていたことが窺われる(甲二四三)のであるから、右指導を受けたことから、被告USIUの職員が電話による返答においてはともかく、受験説明会における口頭の説明においてまで、前記のとおり説明内容を変更したかは疑わしく、甲斐田らの前記供述は、前掲甲二四二、証人今西洋子の証言に照らして、直ちに信用することができない。

2  平成元年度における被告USIU及び同日本校の実態

(一) 資格等について(甲四八、二二〇、二四三)

被告USIUは、ウィーン及び西ドイツ(ウィースバーデン)にはキャンパスを有しておらず、同被告のエクステンション・コースを設置しているにすぎなかったが、被告USIUは、学生募集に有利であると考え、これらの都市にもキャンパスがあるとしていたものであった(これに対し、平成二年度学生に対するパンフレット等(甲六四、六五)においては、その作成時に同被告職員から問題を指摘されたこともあって、右記載は削除されるに至った。)。

また、USIU日本校は、WASCから、USIU本校の分校である旨の認定を受けていなかった。

(二) 教育方法について(甲一六三、二二六、二四一ないし二四三、証人今西洋子)

(1) USIU日本校では、授業のカリキュラムは決められていたものの、「語学コンピュター・ラボプログラム」は実施されていなかった。

(2) USIU日本校では、九七a、九四、九一及び九〇のクラスには分けられたものの、話す、聞く、読むの各分野ごとにクラス分けがなされることはなかったため、学生の能力は、同一クラスであっても、各分野によっては個人差が著しいこともあった。

また、被告USIUとしては、教室との関係で平成元年度入学可能人数を二〇〇ないし二二〇名程度と考えていたが、三二四名もの入学を認めたため、若干の入学辞退者がいたものの、一クラス当たりの学生数は当初約二五名となり、椅子や机の割当てのない学生もいたばかりか、その授業についても、一つの教室をベニヤ板のようなもので二つに仕切り、当初は上部数十センチメートルの隙間があり、同一時間に一人の教師が二つの教室を掛け持って教えるなどしていたため、最初の二、三日は隣の教室からの声が喧しく、学生から被告USIU側にクレームがつけられるような有様であった。

(三) 教育スタッフについて(甲二二〇、二四三)

平成元年四月当初のUSIU日本校の教育スタッフは、後記(1)記載のとおりであったが、ケン・オートン以外に本校の現職スタッフは存せず、また、同校にサンディエゴ本校の現職教授が巡回してくることもなかった(これに対し、USIUは、同日本校開校当時を除き、USIU本校から直接派遣された教授は八、九名存し、その後その数は増加している旨主張し、これに沿うかのような山本の供述も存するが(甲二四三)、右供述は、本校で教鞭を取っていた者ではなく、サンディエゴにおいて、本校と契約した後、日本校に送られてきた者を指すものであって、また、被告USIU自身、サンディエゴに生活の本拠を有する教育スタッフの多数の者が一時期に日本校に異動することは、本校の教育活動に支障を来し、実現不可能であることを認めているのであるから、右供述に沿う事実が認められるとしても、前記認定を妨げるものではない。)。

また、USIU日本校開校当初の教育スタッフは、平成元年九月(秋学期)には、後記(2)記載のとおり、一新されるに至り(甲九一。なお、原告らは、右一斉退職の原因は、USIU日本校が学校法人化されず、これらの者に対する就労ビザが発給されなかったためであると主張し、これに沿う山本の供述(甲二四三)のほか、ディビット・ベイカについては、その雇用契約期間が一九八九年(平成元年)四月二一日から一九九〇年(平成二年)四月二〇日までの一年間とされていた事実も認められるが(甲一二七)、山本自身、右供述が推測であることを認めているばかりか、教育スタッフ全員が就労ビザを有していた旨の甲斐田の供述(甲二二〇の60丁)の存在に照らし、山本の前記供述は信用することができず、ディビット・ベイカの雇用契約期間及び同人を含む他の教育スタッフの一斉退職の事実をもって、原告らの主張事実を推認するには足りない。)、平成二年一月からは、後記(3)記載の者も教育スタッフとして加わるに至った(甲六六)。

(1) 校長

ケン・オートン

USIU本校副学長、東洋学博士

学部長

オスカー・キャネドー

英語教授法博士、スペイン語博士

教員

ペリー・アレクザンダー

国際関係学博士、神学博士

ディビット・ベイカ

英語教授法博士、管理学修士

ルイス・クレイン 英語教授法博士

(リビー) 国家特別研究者賞受賞者

スザンヌ・マークス英語教授法博士

フランシス・スベアーズ教育学修士

アン・アサリー

英語教授法博士取得中、ESL教師

フランク・クレイポール

学士、ESL教師

ディビット・モロウ

学士、ESL教師

(2) DENISE INCORONATO

ESOL教授法修士、心理学学士

ESOL教師育成経験数年

JUDY KING 音楽科学士

カリフォルニア州教師免許、英語教師

DEE HOLMAN

教育学修士、同学士

英語教師育成、英語教師

JEANNE LIPTON

英語教育修士、芸術学士

ESOL教師経験五年

ROBERT MCKENNA

英文学修士、同学士

カリフォルニア州教師免許(教師経験三〇年)、同州立大学教師三年、サンディエゴ市立大学教師三年、マレーシアESOLアドバイザー

TODD ENDRESS

財政学学士、英語教師

BILL FADDEN

英文学修士、同学士

ESOL教師(メキシコ、ベトナム)

ROBERT NEFF

カリフォルニア州教師免許

TIM BROOKS

国際財政学修士、経済学学士

ESOL英語教師(メキシコ)二年

LYNN BROOKS

政治学学士、複数教課教師免許

ESOL教師

LYNN SCHROEDER

英文学修士、同学士

ESOL教師経験二五年、サンディエゴ市立短大教師、イラン(テヘラン)でESOL教師

CASSANDRA WADKINS

ESOL修士課程、英文学学士

サンディエゴ市コミュニティーカレッジ教師、カリフォルニア州ESOL教育会メンバー

(3) REYMOND HICKS

英文学学士

セントメアリー大学英語講師

CHRISTIAN JON DECKER

生物科学教師、野生動物学学士

成人学校教員、中高校教員

DEBORAH ALBERT

教育学修士、英語第二外国語学士

英語第二外国語教師(三年)

成人学校教員(一年)

BRADLEY JOSEPH CAMERON

薬学学士、英語講師(二年)

(四) USIU日本校のその後の展開について

(1) USIU日本校では、前記第二の一(争いのない事実等)3(二)記載のとおり、その閉校に至るまで、専門学部(専門課程)はもとより、教養学部(教養課程)も設置されることはなく、その学校法人化も実現されるには至らなかった。

(2) もっとも、被告USIUとしては、基本協定締結時には、一学期間で教養課程進学資格者が一〇名以上出るとの予想の下に、平成元年九月に右課程を開設する意向であったが(甲二二〇の22丁以下)、当初の予想と実際の進級結果が余りにも大きかったことから、次のような措置を採ることにした。

① 被告USIUは、平成元年八月二日、同日本校の九七クラス所属の学生のうち、希望者を対象として、EPTテストを行う(甲八八。なお、ESOLコースでは、入学時のEPTテスト及び学期末テストにより、各学生のレベルを決定するが、学期開始後に授業における学生の実力を見た上で、大学が必要であると認めた場合にはEPTテスト又は学期末テストにより判定したレベルから、学生の学力向上に最も適したレベルへ移す場合がある(甲八九)との説明もあった。)。

② 平成元年度春学期期末テストにおいて一〇〇レベルに進級した学生については、同秋学期に、必修として一〇単位のESOLコースのほかに、「英語一〇五(甲八九、二二〇の66丁。USIU学部入学基準を満たしている学生の場合、USIUサンディエゴ本校で学部コース五単位と認められる学科)」を選択することができる(もっとも、右制度は、学生が早く学位を取得することができるために設けられたものであって、ESOL一〇〇レベルを合格すれば、学部に進級することができるものの、不合格となればESOL一〇〇を再履修としなければならなくなるため、学生は右再履修につながるようなコース選択を避けるべきである旨の注意(甲八九)もあった。)。

(五) 顧問について(甲三七、二三六、二三七の各一、二三八の二、二三九、二四〇の各1)

被告USIUのパンフレット等に顧問として記載されていた六名の著名人のうち、林健太郎と岡田實については、知人の依頼や紹介等により、USIU日本校の顧問就任を引き受けるかのような対応をとったことがあり、また、伊勢芳吉については、被告USIUを大阪府や社団法人大阪工業会に紹介したことがあったが(なお、USIU日本校の学校法人設立準備会委員名簿(甲二三五)によれば、伊勢芳吉は同会長に、岡田實は同会長代理に就任している。)、いずれも正式な顧問契約までは締結したこともなく、顧問料等を受領したこともなく、その余の者については、被告USIUから、同日本校の顧問依頼すらなかった。

(六) 平成元年度入学生は、以下のとおり、当初の表示及び説明とその実態が異なることについて、被告USIUに抗議したこともあったが、その対応は一貫したものではなかった。

3  被告USIUの事後的説明

(一) 被告USIU(ケン・オートンUSIU副学長、USIU日本校学部長)は、同日本校の学生やその父兄に対し、一九八九年(平成元年)八月八日付け「USIUの入学と進学に関する基本的意図」と題する書面(甲一一四。その内容の概要は次のとおり。)を配付した。

(1) 入学定員について

一五〇名という当初の発表は、絶対的定員ではなく、一月末の予測数にすぎず、三二四名の入学を許可したのは、現に入学応募した学生で実力があると認められる人数が予測数以上あり、USIU側としても、教師数と教室容量にその学生を受け入れる余裕があったためである。第一期学生の数が多いほど、それらの中から、より多くの専攻志望が出ることにつながり、大学として一つでも多くの学部をより早く開く準備が整うことにもつながる(被告USIU(同日本校事務局)の一九八九年(平成元年)一一月一八日付け米国国際大学日本校新聞(甲九五)にも右同様の記載がある。)。

(2) クラスについて

一クラス当たりの学生数二〇名という点も、学期途中に進級した方がよい等の場合には、多少変更することもあるが、一クラス当たりの人数が増加することになっても、教授陣と学部長とが十分な検討をした上で、授業内容の質に違いが出ないように配慮している。

各学生をそれぞれのレベルに最適なクラスに入れるために、時には一クラス当たりの学生数が一〇名の小クラスから二五名のクラスになる場合もあるが、この方が最も効果的な成果を収めることにつながる。

九月四日からの新学期に在学予定の学生数は三一二名であり、そのクラスの内訳は次のとおりであるが(したがって、ESOL一クラス平均の学生数は19.5名となる。)、全ての授業は八教室で運営することができるのに対し、現在の仮校舎は一二教室もある。クラスのレベル クラスの数

英語 一〇五   一

ESOL一〇〇   一

ESOL 九七   三

ESOL 九四   六

ESOL 九一   五

ESOL 九〇   一]合計一六クラス

(3) 教師について

各レベルの授業内容の目的、構成、教科書、教授方式及び教師技能に関する説明は、教授摘要に明記され、各教授は各クラスを担当するにあたり、各々の教授摘要に従い、授業から採点までを一定の規格に基づき行っている。

また、教務主任は、常時、各教師の基準を調べることができる方式になっているため、その基準に漏れたり遅れたりする教師を管理するが、それでも右基準を守れない教師は解雇し、補給したりする(このように、教師各員も、本校と同じ方式で採点評価される。)。

教師の資格については、本校の学部責任者と管理部門担当者によって厳格に書類審査をした上(審査対象となる書類は、各教師の学校での成績、履歴書、教授経験、教授成績及び推薦書であり、一項目でも高い教育水準に満たないと判断される場合には、不採用となる。)、面接し、採用している。

(二) また、被告USIUは、オニオン21と称するミニコミ紙に同日本校を詐欺商法と中傷する記事が掲載されたとして(甲一一五)、平成元年九月一三日、同校PTAを開催し(甲九二)、また、同年一〇月、次の内容の書面を配付したり、翌一一月八日に再度同校PTAを開催したりなどして、次のような弁解に努めていた(甲九三)。

(1) USIU日本校のコースは、全て米国大学における完全な資格保持者である教授陣による授業を行っており、アルバイト講師は一人もいない。

(2) USIU日本校の教師全員は、公式の教師の資格と経験を持っており、正式の雇用契約に基づき一年契約を締結しており、観光ビザの教師は一人もいない。

(3) USIU日本校には、サンディエゴ本校が永年の経験に基づき独自に開発したコンピューターによる英語授業があり、専任の常勤教師がいる。

(4) ESOLコースの授業は、学生と教授との比率は、約二〇対一を基準としている。

(5) USIU日本校は、現在、大阪府私学課の指導の下で、学校法人の申請をする具体的準備を急ぎ進めている。

(6) USIU日本校のESOLコースは、話す、聞く、書く、読むの各クラスが次の四つのレベルで構成される(初級でスタートした学生であっても、毎学期一レベルずつ進級していけば、四学期でESOLコースを修了し、学部への進級が可能であり、年四学期制のUSIU海外校で履修すれば、一年間で学部への進級が可能となる。)。

初級(九〇ないし九三)

中級(九四ないし九六)

中上級(九七ないし九九)

上級(一〇〇Aないし一〇〇C)

(7) 平成元年九月には、USIU日本校学生のうちから、サンディエゴ本校に二八名、ヨーロッパ校に二名の者が編入する。

(三) 更に、被告USIUが、平成元年度秋学期修了後に、同日本校学生に対し、配付した書類中にも、次のような説明があった(甲六六)。

(1) ESOLコースのクラス分けについて、前記(二)(6)記載のとおり。

(2) 学生の学力向上のためのプログラム行事として、他の大学にないシステムとして、被告USIUが独自に開発した英語学習システムであるコンピューターラボがある。

(3) USIU日本校及び東京校の編入状況

キャンパス     編入人員

一九八九年九月 一九九〇年一月

サンディエゴ本校二八名二一名予定

ヨーロッパ校   二名 四名予定

(四) なお、被告USIUは、平成元年一〇月二四日、同日本校学生に対し、大学教養課程進学クラス入試受験の有無やUSIU教養課程入学の希望の有無に関するアンケートをとったこともあったが(甲九四)、うち海外校編入希望者に対し、編入は全ての学生に認められるものではなく、期末テストにおいて基準のレベルを超えていなければならないことなども再度通知していた(甲四八の5頁、八七)。

二  前記争いのない事実等に証拠(後掲各書証)及び弁論の全趣旨を総合すれば、平成二年度入学生である原告番号25ないし35の原告らについて、次の事実が認められる。

1  被告USIUの平成二年度入学生に対する表示及び説明

(一) 被告USIUは、USIU日本校入学希望者に対し、入学案内(甲六四、六五)を配付していたものであるが、その概要は、次のとおりであった。

(1) 資格等について

① 被告USIUは、サンディエゴ(本校)、ヨーロッパ(ロンドン)、メキシコ(メキシコシティ)、アフリカ(ナイロビ)及び日本(東京、大阪)の世界主要大陸にキャンパス拠点を有し、学生は、右各国USIU校間を単位を失うことなく自由に編入でき、右各国USIU校においても、大学・大学院基準協会認定の単位及び学位(准学士、学士、修士、博士号)を取得しうる(甲六四の4ないし7頁、甲六五の2頁)。

② USIU日本校の教育プログラムは、次のとおりである(甲六四の17頁。別紙「USIUコース フローチャートと基本ルール」参照。一九九〇年(平成二年)四月二〇日付け入学オリエンテーション(甲一〇三)においても、右別紙と同一のものがある。)。

USIU日本校の場合、USIU独自のEPTという英語力判定テストを受け、入学の判定がなされるが、日本の高校を卒業したほとんどの生徒は、現在、英語力が不足しているため、EPTの判定結果に基づき、USIUが独自に開発したESOLコースで英語力をつけ、これを修了し、進級判定に合格した後(進級判定は、出身高校の成績、ESOL在籍中の成績、日本校ESOL学部長の推薦などを基準として判定する。)、G.P.A.(高校評定平均値)の基準に従って教養課程(学位課程又は一般課程)に進級する(一般課程は、日本校だけに設置された二年間の課程で、一年次と二年次の学期末の編入判定で、一定の成績と認められた学生が、学位課程に進むことができる。)。

教養課程(二年)を修了した学生は、専攻を決定して学部三年生となり、専門課程に進級し、これを修了すると、USIUの学位(学士号)を取得して卒業する。

③ 学部紹介として、USIU日本校には教養課程(大学一、二年次)が開発されているほか(米国大学では、文系・理系にかかわらず、一、二年次は教養課程を履修する。したがって、全ての専攻に対する教養課程は全キャンパスでとることが可能である旨の説明も付加されている。)、国際経営・経済学部及び異文化・国際間関係学部の二学部が開設される予定である旨が図示されている(これに対し、USIU東京校ではESOLコースのみの開設であることが明記されている。)。また、右開設予定の二学部を含む他の学部についての詳細な説明もなされている(甲六四の8ないし12頁)。

④ 前記一1一(1)④記載の平成元年度における説明と同じ(甲六五の7頁)。

(2) 教育方法について

① 前記一1一(2)①記載の平成元年度における説明と同じ(甲六四の18及び21頁、甲六五の5)。

② 同②記載の平成元年度における説明と同じ(ただし、コースの名称について、「Eng」を「ESL」と変更したほか、「話す」のクラスの例示をより詳細なものに変更している。甲六四の18頁、甲六五の6頁)。

(3) 教育スタッフについて

① 前記一1一(3)①記載の平成元年度における説明と同じ(ただし、学部紹介に関するものである旨が明記されている部分もある一方、オートンUSIU日本校校長兼同本校副学長からのメッセージとして、日本校のESOLコースの教授陣にはサンディエゴ本校採用の経験豊富な教授を迎える旨の記載もある。甲六四の4頁、8頁及び16頁、甲六五の2頁)。

② 同②記載の平成元年度における説明と同じ(甲六四の18頁。ただし、ESOLコースが大学そのものではない旨も明記されている。)。

(4) USIU日本校の今後の展開について

① 前記一1一(4)①記載の平成元年度における説明と同じ(甲六五の11頁)。

② 平成二年四月から大学の一般教養課程を開く予定であり、将来、まず、国際経営・経済学部及び異文化・国際間関係学部の二学部(定員合計五〇〇名)を設置するほか、TESL、経営学の修士課程のコースを設けたり、学部増設、大学院の設置等を行う予定である(甲六四の20頁、甲六五の12頁)。

③ 前記一1一(4)③記載の平成元年度における説明と同じ(甲六四の16頁、甲六五の12頁)。

(5) 顧問について

前記一1一(5)記載の平成元年度における説明と同じ(甲六四の24頁)。

(二) また、被告USIUが、平成二年度入試受験生やその合格者に対し、配付した「USIU米国国際大学はアメリカの大学です。」と題する書面(甲一一二)にも、次のような説明がなされていた。

(1) 米国においては、大学・大学院基準協会が、大学の施設や教授資格を決定しており、学士・博士号なども同協会の基準に従って認可されるところ、被告USIUも、右協会の設置基準に従った米国の大学である。

(2) 岸和田市に設立されるUSIU日本校も、それ自体米国の大学であり、単独で大学・大学院基準協会の設置基準を満たす施設・陣容となる。したがって、海外留学をしなくとも、岸和田キャンパスで必要単位を取得することにより、米国の大学卒業の資格が得られる。

(三) 更に、被告USIUが平成二年度入学生に対して配付した「USIU日本校ESOL進級」と題する書面(甲一〇四)には、次のような説明がなされていた。

(1) 平成元年度入学生は、春学期においても、全授業(必要出席時間)の八五パーセント以上を出席した学生の約九五パーセントが進級した(残り五パーセントについても、進級はしなかったものの、はっきりと進歩の跡がみられた。)。

(2) ESOLコースの修了及び学部進級までのプロセス

ESOLコースは、話す、聞く、書く、読むの各クラスが初級(九〇ないし九三)・中級(九四ないし九六)・中上級(九七ないし九九)・上級(一〇〇Aないし一〇〇C)の四つのレベルに構成される。

(3) USIU日本校及び東京校の編入状況

キャンパス     編入人員

一九八九年九月 一九九〇年一月 一九九〇年四月

サンディエゴ本校

二七名   二一名 四〇名予定

ヨーロッパ校

二名    六名 一二名予定

アフリカ校

〇名    〇名  三名予定

2  平成二年度における被告USIU及び同日本校の実態

(一) 資格等について

USIU日本校は、平成二年度においても、WASCからUSIU本校の分校である旨の認定を受けることはなかった。

(二)教育方法について

(1) USIU日本校では、平成元年度と同様に、「語学コンピューター・ラボプログラム」は実施されることはなかった。

(2) USIU日本校では、読む、聞く及び書くの各分野について、それぞれ各スキル別に初級(九〇ないし九三)、中級(九四ないし九六)、中上級(九七ないし九九)、上級(一〇〇)のレベルでクラスが編成されたにとどまり(甲一〇三の5枚目)、「話す」の分野でのクラス分けはされなかった。

(3) なお、授業、進級等については、各レベルの授業内容の目的、構成、教科書、教授方法及び教授技能に関することは教授摘要に明記されており、各教授は、この教授摘要に従い、授業から採点まで一定の基準に基づいて行うこととされていた(甲一〇三)。

(三) 教育スタッフについて

(1) 被告USIUが、一九九〇年四月二〇日付け入学オリエンテーションにおいて平成二年度日本校教師として紹介したのは、次の者であった(甲一〇三の3及び4枚目)。

DENISE INCORONATO

ESOL教授法修士、心理学学士

国際関係学士、私立高校教頭、ESOL教師育成経験数年

JUDY KING

音楽科学士、ESOL英語教師

カリフォルニア州教師免許、音楽教師

DEE HOLEMAN

教育学修士学士、ESOL英語教師

英語教師育成

JEANNE LIPTON

英語教育修士、芸術学士

ESOL教師経験五年

ROBERT NEFF

ESOL英語教師

英語及び言語学学士修士、カリフォルニア州教師免許、地区教育委員、教頭

TIM BROOKS

国際財政学修士、経済学学士

ESOL英語教師(メキシコ)二年

LYNN BROOKS

政治学学士、ESOL英語教師

複数教課教師免許

RAYMOND HICKS

英文学学士、英語教授法修士

セントメアリー大学英語講師、ESOL教師歴あり

CHRISTIAN JON DECKER

生物科学教師、野生動物学学士

成人学校教員、中高校教員、ESOL教師歴あり

DEBORAH ALBERT

教育学修士、英語第二外国語学士

英語第二外国語教師三年、成人学校教員一年、ESOL教師歴あり

BRADLEY JOSEPH CAMERON

薬学学士、英語講師二年

SANDY CROKER

国際関係学学士、ESOL教師三年半

THOMAS GANTZ

東洋学学士、英語教師三年

(2) もっとも、被告USIUが、一九九〇年五月一七日付け「一九九〇年度編入全体オリエンテーション」案内においてUSIU日本校ESOLプログラム教師陣(ただし、一部抜粋の注意書がある。)として紹介したのは、次の者であった(甲一〇七)。

DENISE INCORONATO 「国際関係学士」の記載がないほかは、右(1)の同人に関する記載と同じ。

JUDY KING 右(1)の同人に関する記載と同じ。

DEE HOLEMAN 右(1)の同人に関する記載と同じ。

JEANNE LIPTON 右(1)の同人に関する記載と同じ。

ROBERT MCKENNA 英文学修士学士、カリフォルニア州教師免許(教師経験三〇年)、カリフォルニア州立大学教師三年

サンディエゴ市立大学教師三年、マレーシアESOLアドバイザー

TODD ENDRESS 財政学学士、ESOL英語教師

ROBERT NEFF 「英語」及び「言語学学士修士」の記載がないほかは、右(1)の同人に関する記載と同じ。

TIM BROOKS 右(1)の同人に関する記載と同じ。

LYNN BROOKS 右(1)の同人に関する記載と同じ。

REYMOND HICKS 英文学学士

セントメアリー大学英語講師

CHRISTIAN JON DECKER「ESOL教師歴あり」の記載がないほかは右(1)の同人に関する記載と同じ。

DEBORAH ALBERT 「ESOL教師歴あり」の記載がないほかは右(1)の同人に関する記載と同じ。

BRADLEY JOSEPH CAMERON右(1)の同人に関する記載と同じ。

(四) USIU日本校のその後の展開について

USIU日本校の学生のうち、平成二年春の時点で既に約二〇名の学部進学資格者がいたが、被告USIUは、WASCの認定に関する問題が発生しているとして、WASC認定の学部はもとより、専門課程及び教養課程(学位課程・一般課程)を設置することもなく(甲一二〇)、また、その学校法人化も実現されることはなかった。

(五) 顧問について

前記一2(五)記載のとおり。

三 更に、前記争いのない事実等に証拠(丙一五その他後掲各書証、証人上路忠盛)及び弁論の全趣旨を総合すれば、USIU日本校閉校に至る経過について、次の事実が認められる。

1  WASCについて

(一) 被告USIUは、平成二年度入学式の前日、USIU日本校のPTA役員に対し、WASC再認定の問題があるとして、WASC認定の学部を同年四月から発足させることができないが、既に学部入学資格を有する学生で、G.P.A.3.5以上の成績を保持する学生のうち、本校の学部編入を希望する者については、そのための一往復分の航空運賃、寮費、食費を被告USIU側が負担するとの代替措置を採る旨を説明した。

これに対し、USIU日本校学生のうち、右資格を有する者の中には被告USIUの提案した代替措置を利用した者や、同資格を有しない者の中にも自費で外国のESOLコースに留学した者もいた(甲一二〇の2頁、二二〇の30丁以下)。

(二) また、被告USIU(マクレナン学長及びマクモナガル日本校校長)は、平成二年一〇月二七日までに、WASC問題について、次のような説明を行うに至った(甲一二〇の1ないし3頁)。

(1) 米国では、州政府教育省(日本における文部省に相当する。)の認定を取得しさえすれば、WASCに所属しなくとも大学を設立することができるが、WASCに所属することは、被告USIUにとって、大学の施設や教育が一定以上のレベルを保持していることの証明となるから、より優れた学生を集めることができ、その大学にとっても、州政府などの奨学金を多くの学生が支給されるなどのメリットがあるため、米国の西部地区のレベルの高い大学は、WASCに所属している。

(2) 被告USIUは、以前からWASCに所属しており、今年がその更新期に当たるが、財政的な問題等により、引き続きWASCの認定を取得することは容易ではない状況にある。

(3) WASCは、一九八九年(平成元年)六月、USIU本校を調査に訪れ、その運営上、幾つかの問題点を指摘し(特に重要な指摘は、財政問題であった。)、一九九〇年(平成二年)一〇月に再調査することになった。

(4) 被告USIUは、財政面における立て直しに努力しており、その方法の一つである帝京大学との提携が実現すれば、財政面での援助が得られると思われるが、現在は予備段階にすぎず、本契約には至っていない。

(5) USIU本校がWASCの認定を取得することができなければ、同日本校においてWASCの認定を取得することも右認定の学部を発足させることもできないが、USIU本校が引き続きWASCの認定を取得することができ、その後、同日本校も右認定を取得することができれば、WASC認定の学部を発足することができる(被告USIUの見通しとしては、早ければ一九九一年(平成三年)九月の予定であった。)。

(三) もっとも、被告USIU(ラスト学長)は、その配付時期は明確ではないものの、同日本校の学生父兄に対し、次のような説明のある「大学ご支援の各位へ」と題する書面(甲一一七)を配付したこともあった。

(1) 今回のWASCの定例審査の結果、被告USIUに提出された提案は大変厳しい評価であったが、その対応として、被告USIUは、米国内で定評のある財務管理専門会社であるクレサプ社に対し、当校の目標と現状を教育内容から財務内容に至るまで総括的に分析させ、また、教育分野において著名な学者数名に対し、各専門の立場から当校の教育内容を個別に分析させ、いずれも報告書を提出する旨を依頼した。

(2) その結果、被告USIUは、確固たる財政的基盤の下に運営されていることが明らかとなり(その現在の総資産高は総債務高の五倍である。)、米国西部地域大学許可審議機関の許可を受理した(今回の許可の有効期限は、一九九一年(平成三年)三月一五日である。)。

(3) 右許可は、当校の学生が、他校へ編入する際に、当校で修得した単位を他校で認められることや、政府、地方自治体などの公の機関の奨学金に応募する資格ができることをも意味する。

(四) ところで、全米高等教育基準認定協議会によれば、「認定」の役割や意味は、次のようなものであると説明されている(甲一五一)。

(1) 「認定」とは、教育機関やその提供するプログラムが、業績、信頼、質の面で、その利用者が教育界の信頼に応えるに足る水準にあると認める制度であり、米国においては、認定専門団体等が、認定基準を設定し、現地を視察し、認定を求めている教育機関やプログラムを評価し、右基準に達している場合は、認定校(又は教育プログラム)として公に指定する。

(2) 日本における日本人のための米国の教育プログラムの一つである「分校」とは、学位取得のための単位を与え、米国にある高等教育機関の分校とみなされるものであるが、認定を受けているのは、米国にある機関のみであり、分校は別個の認定を受けているわけではない。分校が本校とは別に審査を受け、認定を行う団体が分校の教育の質が本校と同じ水準と判断して初めて米国にある本校の認定が分校にも授与される。

これに対し、「言語教育プログラム」(これも、日本における日本人のための米国の教育プログラムの一つである。)は、「分校」が提供しているものと、単位を授与する機関とは別の独立プログラムとして提供しているものもあるが、一般的には、いずれの言語プログラムにおいても、単位を取得することができず、学位の取得にはつながらない。したがって、言語プログラムは、別個の審査を受けていないので、単なる米国の認定校のプログラムにすぎないとみなされている。

(3) ある機関が機関全体として認定を受けている場合、右認定が示すものは、当該機関の全般的な質であり、その認定基準は、教育理念、管理、学科、教員、学生のためのサービス、資金源、図書館、建物などの重大な要件に対して適用される(ただし、その認定は、認定校の提供している個々の学科や個々のコースの質を示すものではない。)。認定を受けているということは、その認定校の教育活動が外部からの評価を受けて、前記認定基準に示されているような、米国の高等教育に期待されている水準に到達していると判断されたことを示している。

認定校の場合、一つの米国の認定校から別の米国の認定校へ単位を移すことが可能であり、また、より高い学位の取得を目指すプログラムへの入学も可能である。

(4) 認定は、認定校や認定プログラムの教育上の質を、ある妥当な期間、証明するものであるが(認定期間は約五年から一〇年であるが、その間、必要ならば中間評価を行う。)、認定は恒久的なものではなく、認定校や認定プログラムに実質的な変化が生じた場合、認定団体はこれを評価する。

(5) 認定校になれば、政府が資金援助をしているプログラムの資格を取得することができ、また、認定校に入学願書を提出している学生又は既に入学している学生は、政府の学生ローンの資格を取得することができる(ただし、認定を受けていても、外国国籍の学生が米国政府の学生ローンを利用することはできない。)。

2  被告USIUの対応等

(一) 平成二年九月二七日(以下、(六)まで同年とする。)

被告USIUは、サンディエゴにおいて、次のようなプレス発表を行ったが、被告岸和田市には全く知らされていなかったものであった(甲一一八)。

(1) 被告USIUは、帝京大学とその提携大学で組織されている世界的ネットワークにこの度加入した米国の他の四大学と共に、基本契約を締結した。

(2) 被告USIUにおいては、その名前が「USTIU」と変更されるものの、被告USIUの教授陣もスタッフも現在のままであり、その提供するプログラムも変更されることはない。

(3) USTIUは、WASCのメンバーである。

(二) 九月三〇日

被告USIU(マクモナグル日本校校長)は、USIU日本校の学生やその父兄等に対し、次の内容の書面(甲一一九)を配付した。

(1) USIU日本校は、帝京大学グループと交渉し、提携するに至った。

(2) マクレナン学長は、右提携により、日本校において提供しているプログラムが変更されることはないと述べている。

(3) USTIUは、WASCのメンバーであり、その将来の運営も、全てWASCに従うことが必至とされている(WASCは、平成二年一〇月二日から五日までの間、USTIUを評定する予定である。)。

(4) USIU日本校の現在の最大の目標は、できる限り早く、単位認定の学位コースを設置することにあるが、右提携はその達成可能性を高めたものである。

(三) 一一月一三日

岸和田市市長が、帝京大学総長と会談した際、同大学からは、被告USIUとの提携条件として、①被告岸和田市と被告USIUとの基本契約の解除、②学校の法人格は取得しない、③USIU日本校では、ESOLコースの授業のみを行う、④提携により予想される学生からのクレームは被告岸和田市が対処するとの四点を掲示し、あわせて、キャンパス用地についても、二五年先ではなく、直ちに所有権を移転し、一〇年を経過すれば、自由に使用することができるようにする旨の提案があったが、被告岸和田市としては、右内容はいずれも到底容認しえないものであった。

(四) 一一月二〇日

他方、被告USIU(マクレナン学長)も、被告岸和田市に対し、帝京大学との提携のために、次のような提案を行った(丙一一の1及び2)。

(1) USIU日本校は、現在存在するプログラムを一九九一年(平成三年)四月まで継続するが(新しい学生の入学は認めない。)、右の時点までに目的を達成することができない学生のために、右プログラムを一九九二年(平成四年)四月まで継続する(ただし、その施設は、被告岸和田市から借り受けるものとする。)。

(2) 被告USIUは、資格のある学生を同日本校のプログラムから被告USIUのプログラムに受け入れることを保証し、資格のある学生に対しては、サンディエゴ校又はロンドン校のいずれかと日本との間の年一回の往復航空チケットを、資格のある学生のうち、USIUシステムへの登録を希望しない者に対しては、幾らかの現金をそれぞれ提供するが、これらの条件の対価として、学生は、被告USIU及び被告岸和田市を将来の訴訟から免責するための書面にサインする必要がある。

(3) 被告USIUは、米国における大学の学位取得に向けた四年制カリキュラムを岸和田市において提供する責任を承継し、認定された財政的に安定した米国大学を探すことを手伝う。

(4) 被告岸和田市は、被告USIUに対し、基本契約の変更とこれによって発生しうる将来の訴訟に対して被告USIUを免責する。

(五) 一一月二六日

被告岸和田市は、被告USIUと会談を行い、前記提案のうち、被告USIUが日本校在学生の保護を十分に行うのであれば、基本契約の変更には応ずるが、将来の訴訟における被告USIUの免責には応ずることができない意向であることを伝えた。

(六) 一二月一二日

被告USIU(マクモナグル日本校校長)は、同日本校の学生やその保護者に対し、次の内容の書面を配付した(甲一八二)。

(1) 被告USIUは、経費の増大や経営の拡大、全般的経済状態等の影響により、現在財政難に直面している。

(2) 被告USIUが検討している選択の一つが帝京大学との提携であるが、未だ締結には至っていない。

(3) USIU日本校は、スケジュールどおり、授業を続ける予定である。

(七) 平成三年一月一六日(以下、(一六)まで同年とする。)

被告USIU(マクレナン学長)は、岸和田市市長に対し、①ESOLコースを四月以降も継続したい、②できるならば、ESOLコースだけの新入生を募集したい、③基本契約の改定、④来年度も仮校舎を無償で借り受けたい旨を申し出たが、被告岸和田市は、学生の救済を基本に取り組むように要求していた。

(八) 一月一八日

被告USIUは、次の内容の声明を発表した(甲一二二)。

(1) 被告USIUは、一月一六日及び一七日、被告岸和田市との間に話し合いの場を設けた。

(2) 被告USIUは、チャプターイレブンを提起したが、これは、清算又は破産を意味するものではなく、大学の債権者全ての承認の下において大学が再建に当たっている期間、大学を保護し、その学業プログラムと運営を中断することなく、継続することを可能とするための再建を意味するものである。

(3) 被告USIUは、右再建の一環として、一九九一年(平成三年)春から一九九二年(平成四年)三月まで、同日本校のESOLコースの授業を続ける意向である(平成四年四月以降の授業計画については、被告岸和田市と引き続き協議する必要があり、同校における大学の運営に関連した他の全ての重要な点は見直されているところである。)。

(4) マクレナン学長は、被告USIUは、WASCの認定を受けたままの状態であり、本校の学部在籍学生数は、昨年度冬学期よりも、今年度冬学期の方が上回っていると述べている。

(九) 二月一六日

被告USIU(フィリップス日本校校長)は、岸和田市市長に対し、①被告USIUは、同日本校学生に対して責任を果たす、②日本校ESOLコースは、平成四年三月までは実施した後、閉校する、③日本校学生のうち、海外校編入を希望しない者については、フィリップス大学日本校の入学金免除とUSIUの単位を認める等の措置を採る旨の申出があった。

(一〇) 二月一八日

被告USIUは、USIU日本校学生及び父兄に対し、次の内容の書面を配付した(甲一二三)。

(1) 再建計画に含まれているUSIU日本校の方針としては、一九九一年(平成三年)四月から一九九二年(平成四年)三月までESOLコースの授業を継続する。

(2) 被告USIUは、前記(1)記載のコースのための新入生を受け入れる意向である。

(一一) 二月二二日

被告岸和田市は、これまでの状況を受けて、USIU日本校の対策を総合的に検討実施する機関として「USIU日本校対策委員会」を設置し、学生の保護対策を中心とする検討を開始した。

(一二) 二月二六日

しかし、被告岸和田市は、被告USIU(マクレナン学長)と、同日本校の存続について協議した結果、被告USIUがチャプターイレブンの申請中であり、連邦破産裁判所の監督下にある状況においては、同日本校のこれ以上の存続は非常に困難であると判断し、前記(九)記載の被告USIUの申出を承認するに至った。

(一三) 二月二七日

被告USIU(同日本校事務局)は、USIU日本校の学生の保護者に対し、平成三年度の同校における受講希望者は、翌三月八日までに学費を納入するように通知した(甲一八四)。

(一四) 二月二八日

ところが、被告USIU(同日本校事務局)は、USIU日本校の学生及び保護者に対し配付した書面には、次のような声明があった(甲一八四)。

(1) 被告USIUは、平成三年二月二六日、被告岸和田市と協議を行い、次の点を確認した。

① 被告USIUと被告岸和田市は、相互に協力し、在籍中の学生の処遇について対処する。

② 本件基本契約は終了した。

③ USIU日本校は、一九九二年(平成四年)三月までESOLコースプログラムのみを継続する。

(2) 学長からの報告

① 前記(1)③記載のとおり(ただし、再建計画に従わなければならず、赤字の運営はできないため、同校の学生が三〇人以上残らなければ、その運営が非常に困難となり、再建計画の見直しが必要となる可能性もある。)。

② WASCについては、現時点で夏までは認められており、六月にWASC経営調査団が本校を訪れ、最終的な決断が下される予定であるが、現在残された問題は財政の改善だけであり、そのための努力を行っている。

③ 一九九一年(平成三年)四月から、他の米国大学日本校への編入を希望する者については、被告USIUが入学金の免除等の交渉を行っているので、右希望者はその旨連絡されたい。

(3) スペシャルトランスファー、スペシャルステイタス、ESOL編入

① スペシャルトランスファー(日本校学生のうち、G.P.A.3.0以上(五段階)とESOL一〇〇(三つのセクションのうち、二つを完全に終了)をパスし、大学入学資格を有する学生で、編入を希望する者)は、大阪・サンディエゴ間の一往復チケット(他のUSIU校への編入希望者は、これと同額)の授与、USIU大学内寮の一二学期間又は学位取得までの貸与(食費及び寮費は自己負担)、海外校における日本校と同額の授業料負担(ナイロビ校を除く。)の待遇とする。

② スペシャルステイタス(日本校学生のうち、G.P.A.2.5ないし2.99(五段階)を保持し、ESOL一〇〇(三つのセクションのうち、二つを完全に終了)をパスした学生で、編入を希望する者)は、一年間(三学期四五単位)学部の授業を受講することができる(ただし、飛行機代、寮費、食費等は自己負担。)。継続して学部の勉強をするためには、三学期間に四五単位を履修し、少なくとも米国における四段階評価で2.0以上の成績を修める必要があり、三学期目の最後で右成績を修めることができれば、その時点で①の待遇を受けることができる。

③ ESOL編入について、ESOLコースで二つ以上のコースを未だ受講している者については、少なくとも二つ以上のコースを修了するまでは、編入先の授業料額を支払う必要があり、飛行機代、寮費、食費等も自己負担となるが、ESOLコースを二つ以上修了し、G.P.A.3.0以上(五段階)を保持していた場合、①の待遇を受けることができる。

G.P.A.2.5以上ないし2.99(五段階)を保持し、ESOLコースを二つ以上修了した場合、②の待遇を受けることができ、更に、②記載の条件を満たせば、①の待遇を受けることもできる。

(一五) 三月一五日

被告USIU(フィリップス日本校校長)は、被告岸和田市に対し、日本校学生の処遇に関する見通しが立ったことを理由に、一方的に同校を平成三年六月に閉校する旨通知してきた。

これに対し、被告岸和田市は、被告USIUに対し、同被告の日本における窓口の設置及び学生に対する責任ある対応を求めたが、結局、右通知を了解するに至った。

(一六) 三月一八日

被告USIU(フィリップス日本校校長)は、USIU日本校の学生及び保護者等に対し、次の内容の書面(甲一八三)を配付したが、原告らのESOLコース修了状況は、被告USIU実施の平成三年春以降の学生進路状況調査結果によれば、別紙「原告らのESOLコース修了状況」記載のとおりであった(甲一二九。左側の丸付き数字が各原告の原告番号である。)。

(1) USIU日本校は、春学期修了時に閉校することに決定した。

(2) ESOLコースの学生の多くは、六月には同コースを修了し、スペシャルトランスファー等の利点を受ける。

(3) サンディエゴ本校においてESOLコースを継続して受講する学生には、同コースを修了するまで無料で寮を授与され、大学の学部課程のためのスペシャルトランスファー等の利点を受けることができるようになる。

3  学校法人化に関する経緯

(一) 平成元年一〇月、日本法人設立準備会が設立され(その構成員は、被告USIU学長、同本校の副学長二名、同日本校校長、事務局長(甲斐田)、大阪府教育長、大阪工業会(伊勢芳吉)の合計七名であり、被告岸和田市の職員等はその構成員には含まれていなかった(なお、甲二三五参照。))、大阪府私学課の指導を受け、十数回にわたる協議の後、専修学校又は各種学校として当時の教育実態を尊重し、学校基準に沿った内容で計画書を作成するなど、右時点後は、学校法人化に関する具体的活動を開始していた。

(二) 平成二年七月二六日、被告USIUから、大阪府私学課に対し、学校法人設立認可申請の事前協議書が提出され、概ね平成二年中には私学審議会の議を得るところまで進んでいた。

(三) しかし、被告USIUは、前記のとおり、帝京グループとの提携交渉、チャプターイレブンの申請などを行ったほか、最終的には、学校法人設立認可申請及び各種学校設立認可計画を撤回するに至った。

四  被告USIUの虚偽又は誇大な表示及び説明の有無について

1  原告番号1ないし24の原告について

(一) 資格等について

(1) キャンパスの点について、被告USIUは、ウィーン及び西ドイツ(ウィスバーデン)におけるエクステンション・コースの存在をもって、虚偽の表示及び説明はない旨主張するが、右コースの教育、保有施設等の内容が明確でないばかりか、同被告自ら、その平成二年度入学案内において、右各キャンパスに関する記載の問題性を指摘された結果、これを削除するに至っているのであるから、平成二年度と対比すれば、平成元年度入学案内においては、より多くのキャンパスを有する信用のある大学であるとの誇大な表示及び説明があったというべきであり、この点に関する被告USIUの前記主張は採用することができない。

(2) 単位及び学位等の授与の点については、学部(課程)の設置と密接に関連するものであるから、後記(四)で判断する。

(二) 教育方法について

(1) 授業カリキュラムについて、原告らは、入学当初は明確に定まっていなかった旨主張するが、前記認定の事実によれば、右カリキュラムは一応定められていたのであるから、この点に関する原告らの主張はその前提を欠くか、又は極めて小さな齟齬があったにとどまるから、採用することができないが、「語学コンピューター・ラボプログラム」実施の点で、虚偽の表示及び説明があったことは優に認められるところである。

(2) クラス分けについて、被告USIUは、合計一六種類のクラス分けを行うと表示及び説明したことはない旨主張し、なるほど、入学案内中、リスニングとスピーキングを一まとめにしたクラス分けがなされるにとどまるかのような記載も存するが、被告USIUの主張する「ESOLコースにおいては、読む、聞く、書くの能力が重視され、英会話能力は必ずしも必要とされていないので、英会話能力とクラスの各レベルは直ちに対応するものではない」ことも、右各レベルに沿ったクラス分けを行うことの合理性までを否定するものではなく、むしろ、右入学案内において、合計一六種類のクラス分けを行う旨が具体例を示して表示されていること、その入学試験もレベル分けを主眼とする旨の説明も存すること、平成元年度入学生から実態との齟齬に関する抗議を受けながら、平成二年度においても、平成元年度と同様の表示及び説明を行い、その結果、「話す」以外の分野においてではあるが、各クラス分けがなされていること等に照らすと、合計一六種類のクラス分けを行うと表示及び説明していたことは明らかであって、それにもかかわらず、平成元年度春学期の段階で四種類のクラス分けがなされたにとどまるのであるから(なお、同秋学期から「英語一〇五」のクラスが新たに設置された事実は認められるが、右は、教養学部(教養課程)を設置しないことの代替措置にすぎないのであるから、ESOLコースのクラス分けとしての意義を有するものではないというべきである。)、この点についても、被告USIUには虚偽の表示及び説明があったというべきである。

(3) なお、原告らは、被告USIUが、平成元年度において、募集人員(一五〇名)を大幅に超える入学者を認めた結果、一クラス当たりの学生数も当初の説明(一五ないし二〇名)を超えた点をもって、同被告に虚偽の表示及び説明があった旨主張するが、入学諸条件についての最終的表示ともいうべき入学要項等(甲四七、四八)には募集人員を合計二〇〇名とする記載があり、これに沿う山本の供述(甲二四三の10丁表)も存するところであって、一クラス当たりの学生数も、確かに、各クラスの学生数の上限を画したものといえなくもないが、一定の幅を有する表示であることをも総合すれば、その言わんとするところは、右程度の人数を基本とした少人数制を採用している旨を表示したというべきところ、入学当初の予定超過人数は五名程度にとどまり、この点に関する被告USIUの事後的説明も加味すると、平成元年度秋学期からは、平均二〇名以下となったことが窺われるのであって、その実態として、学生数それ自体において少人数制の趣旨を損なうものであったとまではいえないのであるから、虚偽又は誇大な表示及び説明があったと認めるには足りず、この点に関する原告らの主張は採用することができない。

(三) 教育スタッフについて

(1) 被告USIUは、教授巡回システムは学部に関するものにすぎない旨主張するが、平成元年度においては、同二年度(甲六四の8頁)と異なり、パンフレット上に明確な区別は存せず、他方、受験説明会等における同被告側からの口頭の説明と相まって、右システムがESOLコースにも適用される旨を表示及び説明したというべきであるから、前記主張は採用することができず、また、被告USIUは、「USIU本校の教授陣」は、同本校が責任をもって、その資格を審査し、スタッフとするという意味であり、本校の現職教員を指すものではないとも主張するが、教授巡回システムに関する説明を前提とする以上、右主張も到底採用することができない。

(2) 次に、被告USIUは、ESOLコースを担当する教授の資格について、一部齟齬があったことを認めつつ、右齟齬は不法行為を構成するほどのものではない旨主張するが、同被告において、USIU日本校の教授において、博士号又はこれに準ずる資格のみならず、英語教授法の資格を有する旨を表示及び説明したことは明らかであるところ、たとえESOLコースには直接関連しない分野であったとしても、最高学位ともいうべき博士号又はこれに準ずる資格を指導教授が有することは、その教育を受ける者にとって、大きな信頼を寄せる要素であり、いわんやESOLコースにおける関連資格の有無は、その教育内容に直結し、指導教授が右資格を有する者による授業であるか否かは教育内容の本質的要素に影響するものというべきであるから、右齟齬は決して無視しうるものではないというべきである。

(3) なお、原告らは、ESOLコースの教員が学期ごとに交替した点も虚偽の表示及び説明として主張するかのようでもあり、その前提となる事実は前記一2(三)認定の限度で認められ、これに沿う被告USIUの事後的説明も存するが、教員の通年契約に関する事前の表示及び説明は何ら存せず、むしろ教授巡回システムに関する説明が学期を単位としていることに照らすと、原告らにおいて、入学生募集時に通年教育に関する信頼を寄せていたともいえないのであるから、この点に関する原告らの主張は、採用することができない。

(四) USIU日本校の今後の展開について

(1) 学校法人化について、被告USIUは、平成元年度入学生募集時には特段の手続も進行していなかったにもかかわらず、すぐにでも実現するかのように説明していたものであるから、この点につき虚偽の表示及び説明があったというべきである。

(2) 教養学部(教養課程)の設置についても、被告USIUは、これが予定である旨明記していることをもって、虚偽の表示及び説明ではない旨主張し、なるほど、USIU日本校について説明した書面には、いずれも「予定」の表示が存するところではあるが、同被告は、平成元年度入学生募集時に、教養課程進学資格者が一〇名以上あることを教養課程開設の条件と考えていたにもかかわらず、右条件に関する説明を何ら行わず、かえって、被告USIU側の口頭による説明やESOLコース修了に要する期間に関する表示をも総合すれば、右「予定」は何らの留保の付されていない確実なものと表示及び説明していたというべきであるから、WASCの認可の点について判断するまでもなく、右齟齬の部分について虚偽の表示及び説明があったというべきである。

また、専門学部の設置についても、「予定」である旨表示され、かつ、二年以上も先のことではあるものの、具体的に開設学部、開設年月及び募集人員を示した上での表示であること等に照らすと、右「予定」も確実に実現されるものと表示されていたというべきであるから、右齟齬の部分について虚偽の表示及び説明があったというべきである。

これに対し、被告USIUは、同日本校における今後のESOLコースの受講、教養学部の受講、国際経営・経済学部及び国際関係学部の受講及び米国大学の学位(卒業資格)取得の各可能性の点について、被告USIUが国際間編入制度を有することを前提として、USIU日本校において、海外校への編入を希望する学生が多数存在することから、USIU日本校が卒業するまで存続していることは契約内容となっていないとして、このことを根拠に不法行為の成立を否定する旨の主張をするものとも解されるが、同被告自ら、USIU日本校のみにおいて必要単位を取得することにより米国大学の学位を取得することが可能である旨明示していたこと等に照らすと、右事実自体契約内容となっていたということができるので、被告USIUの前記主張は理由がなく、採用することができない。

(3) なお、原告らは、平成元年度の半数が外国人とする本格的国際キャンパスの建設の点も虚偽の表示及び説明があったと主張するかのようでもあるが、右は、外国人学生の意思を考慮することなく、被告USIU側において独自に実現しうる性質のものではなく、入学案内上の表示も「めざす」とあるように、せいぜい同被告の将来の希望的展開を述べたにとどまるものとも解されるから、この点に関する原告らの主張は採用することができない。

(五) 顧問について

USIU日本校のパンフレットに記載された六名の著名人のうち、林健太郎と岡田實については、顧問就任を承諾するかのような対応を採っており、また、伊勢芳吉についても、被告USIUを大阪府等に紹介した経緯に照らすと、顧問就任に関する推定的承諾があったとも考えられるところであるから、その手続のみが履践されなかったともいえ、直ちに虚偽の表示及び説明があったとまではいうことができないが、その余の三名については、顧問の依頼はもとより、同被告との特段の接点も見い出しえないのであるから、これらの者の顧問就任については虚偽の表示及び説明があったというべきである。

これに対し、被告USIUは、顧問に関する表示が原告らの入学の動機にほとんど影響していないとして、不法行為の要件としての因果関係の存在を否定する趣旨の主張をするものとも解されるが、著名人の顧問就任は当該大学の名声信用を高める一助を成すものであって、特にその推薦文まで掲載されていたことに鑑みると、原告らの入学動機に少なからぬ影響を与えたことは明らかであるから(証人今西洋子(第一二回口頭弁論調書速記録九丁裏)は、顧問に就任したとされる人物の肩書からUSIU日本校が信用できる学校であるとの結論を出した旨明言している。)、前記主張は採用することができない。

2  原告番号25ないし35の原告らについて

(一) 資格等について

単位及び学位の授与については、平成元年度と同様、学部(課程)の設置と密接に関連するものであるから、後記(四)で判断する。

(二) 教育方法について

(1) 授業カリキュラムについて、平成元年度の判断と同じであるが、特に語学コンピューター・ラボプログラム実施の点については、USIU日本校を批判する記事に対する反論等の機会において、同様の虚偽の表示及び説明を繰り返すなど、その程度も重大であるといわざるを得ない。

(2) クラス分けについて、被告USIUは、平成元年度と同様に、「話す」分野についてもクラス分けを行う旨を明確に表示及び説明していたことは明らかであるにもかかわらず、右クラス分けは行われていなかったのであるから、虚偽の表示及び説明があったというべきである。

(三) 教育スタッフについて

(1) 教授巡回システムについて、確かに、平成二年度においては、教授巡回システムが学部紹介欄に記載されているところではあるが、同時に、USIU日本校の特色欄にも同システムの記載がみられるところであるから、平成元年度と同様の虚偽の表示及び説明があったというべきである。

(2) 平成元年度の判断と同じ。

(3) 平成元年度の判断と同じ。

(四) USIU日本校の今後の展開について

(1) 学校法人化について、前記三3認定の事実(学校法人化に関する経緯)に照らすと、平成二年度学生募集当時には、その実現に向けてある程度の手続が進行していたのであるから、被告USIUの表示及び説明に特に虚偽があったとはいえない。

(2) 学部の設置について、基本的には、平成元年度の判断と同じであるが、教養課程(教養学部)の設置予定については、遠い将来ではなく、当該年度の初め(平成二年四月)と表示及び説明していたことに照らすと、その虚偽性は強いものがあるというべきである。

(3) 本格的国際キャンパスの建設については、平成元年度の判断と同じ。

(五) 顧問について

平成元年度の判断と同じ。

3  したがって、被告USIUの表示及び説明は、右1及び2の虚偽又は誇大と認められる限度で実態と齟齬するものであって、右説明等を信じてUSIU日本校に入学した原告ら学生の信頼を著しく裏切るものというべきであるので、違法というべきであり、かつ、右のような同被告の内部的事情について、虚偽又は誇大な表示及び説明があった以上、特段の事情なき限り、その過失を推認することができるところ、右特段の事情の認められない本件においては、この点に関する被告USIUの過失を推認することができるというべきである。

これに対し、被告USIUは、学校法人化及び教養学部(教養課程)の開設の点について、いずれも平成元年度入学生募集時には予見しえなかった旨主張するが、前者については、手続申請中などと、その当時には全くありもしなかった事実を捏造しており、また、後者についても、自己の想定する教養学部(教養課程)開設の条件を明示することは極めて容易なことであったにもかかわらず、日本における十分な開校実績もないまま、安易な予想の下に、これを実現可能と考えていたにすぎないのであるから、前記主張は到底採用し難いものといわなければならない。

五  USIU日本校の閉校決定について(なお、原告らは、この点を必ずしも、明示的に主張するものではないが、原告らの損害についての主張内容に鑑みるとき、USIU日本校の閉校の違法を当然の前提として、これを主張するものと認められる。)。

前記認定によれば、被告USIUは、平成三年三月一八日、さしたる説明もなく、また、十分な代替措置も講じられないまま、USIU日本校を平成三年度春学期終了時に閉校する旨の決定をなし、平成三年六月一四日をもって、同校を閉校するに至り、その結果として、原告らから、ESOLコースの受講はもとより、教養学部の受講、国際経営・経済学部及び国際関係学部の受講及び米国大学の学位(卒業資格)取得の各可能性を奪ったものといえるのであるから、被告USIUの右行為は、原告らの契約上の地位を一方的に消滅せしめるものとして、違法というべきであり、かつ、その閉校決定の原因は必ずしも断定しえないものの、前記三認定の事実によれば、被告USIUの財政悪化に基本的な原因が存することを窺うことができるものの、その経過を全体としてみれば、被告USIUの一方的決定によるものといえる以上、やはりこの点に関する同被告の過失を推認することができるというべきである。

六  被告USIUの債務不履行責任について

虚偽又は誇大な表示及び説明並びに閉校を理由とする債務不履行に基づく損害賠償請求は、仮に原告ら主張の契約内容を前提としても、前記四及び五で判示した限度で理由がある(なお、念のために付言するに、前記争いのない事実及び前記認定の事実によれば、原告らは、USIU日本校に入学したことにより、被告USIUとの間に入学契約が成立したものであるところ、これにより、被告USIUは、原告ら学生に対し、ESOLコースの受講、教養学部(教養課程)の受講、国際経営・経済学部及び国際関係学部の受講並びに米国大学の学位(卒業資格)取得を可能ならしめるべき義務を主たる義務として負うに至ったということができる。しかして、前記争いのない事実及び前記認定の事実によれば、被告USIUは、財政悪化のため、一方的にUSIU日本校を平成三年六月一四日をもって閉校するに至り、その結果として、原告らは、その後のESOLコースの受講、教養学部(教養課程)の受講、国際経営・経済学部及び国際関係学部の受講並びに米国大学の学位(卒業資格)取得の可能性を奪ったということができ、右事実によれば、被告USIUは、違法に、原告らとの入学契約上の債務を履行不能の状態に至らしめたということができる。これに対し、被告USIUが国際間編入制度を有し、海外校における勉学及び卒業の可能性があることを根拠に、原告らが卒業するまでの間、USIU日本校が存続することが前提となっていないとして、USIU日本校の存続は右契約の内容となっていない旨主張するが、前記のとおり、被告USIUは、USIU日本校のキャンパスのある岸和田において、必要単位を取得するところにより、米国大学の学位を取得することができる旨を明示等していたことに照らすと、被告USIUにおいて、右取得を可能ならしめることがその義務となっているということができるので、被告USIUの前記主張は理由がない。ところで、被告USIUは、右履行不能が自己の責めに帰すべからざる事由につき、これを主張立証すべきところ、本件において、右立証はない。したがって、被告USIUは、原告らに対し、USIU日本校の閉校により、履行不能の責任を負うということができる。)にとどまり、遅延損害金の起算点の点では不法行為による方が原告らに有利となるから、その判断を省略する。

七  小括

したがって、被告USIUは、原告らに対し、不法行為に基づく損害賠償として、前記虚偽又は誇大な表示及び説明並びにUSIU日本校閉校決定と相当因果関係を有する原告らの損害(後記第六で判断する。)を賠償すべき義務があることになる。

第五  争点3(被告岸和田市の不法行為責任)及び同4(被告らの共同不法行為責任)に対する判断

一  前記争いのない事実等に証拠(丙一五、その他後掲各書証、証人上路忠盛)及び弁論の全趣旨を総合すれば、被告岸和田市について、次の事実が認められる。

1  USIU日本校誘致に至る経緯

(一) 大阪府は、社団法人大阪工業会と共同して、従前から米国の著名大学の分校や研究施設の誘致を具体的に検討し、その基本的な考えを表した「米国大学を大阪に」及び「米国大学分校を泉州に」と題する各書面には、後記(1)ないし(3)記載の説明がなされていたものであるが(丙三、四、五の1ないし4)、大阪府としては、その誘致する大学として、ボストン大学も選択の対象としていたものの、同大学は、学生募集、学校経営、学校内のカリキュラムの関係等に関する対応を、地方公共団体や企業に全面的に依存しようとするものであり、いわゆる「丸抱え」の状況であったことから、その誘致は好ましくないものとして、被告USIUの誘致を進めていたものであった(丙五の2及び3)。

(1) わが国の平成元年度にとっての米国大学誘致の意義

全期間、外国留学することと対比すれば、比較的少ない経費で米国大学に学ぶことが可能となる。また、日本分校をオリエンテーションの期間として活用し、十分態勢を整えて米国の大学で学ぶことができる。

(2) 運営主体についての考え方

米国の大学が独自の法人を設立する、あるいは日本側と共同して大阪において財団法人を設立し、この法人が米国大学と協議して、用地の取得や校舎、宿舎等施設の建設を行い、大学にリースする等の方法が考えられるが、種々の選択案について、今後具体的な検討を行う必要がある。

(3) 教科内容及び教授陣

大学コース又は大学院コースのいずれかを主とするか、ビジネス・スクールか、技術系かといった教科内容及び教授陣については、主として米国の大学により決定される事項である。また、大学付属研究所の設置も考えられるが、いずれの場合でも、米国大学の分校・研究所として運営されることが望ましい。

(二) そして、被告USIU(ラスト学長、甲斐田)も、昭和六二年一〇月、大阪府の案内により、岸和田市のコスモポリス計画予定地を視察に訪れるなどし、昭和六三年三月一四日に開かれた大阪府議会商工農林委員会において、USIU日本校の土地条件さえ合致すれば、コスモポリス計画地域における分校開設を本格的に検討する旨の意向を示すなど、大阪府との間で誘致折衝を進めていたものであるが、右の時点では、被告岸和田市には直接そのような話はなく、また、被告USIU(ラスト学長)は、昭和六三年五月一三日、大阪府(同企画調整部国際交流担当理事大藤芳則)に対し、日本校開設のための次のような基礎条件を提示し、これが受け入れるならば、岸和田市へ進出する旨を表明し(丙六)、その結果、八月一五日までに、大阪府と大阪工業会との間で、岸和田市に日本校を設立する旨の基本合意に至ったが(甲一)、右基本合意の締結についても、被告岸和田市に事前の連絡は行われていなかった。

(1) 大学運営のある期間が経過した後、土地についての権利が得られることが必要であり、具体的には、大学に与えられる総価値の四パーセントを毎年譲渡し、二五年間で全て移転させる(この二五年間に、被告USIUは、大学に四〇〇〇万ドルないし五〇〇〇万ドル相当の建物を建設し、一〇億ドル(日本円で約一二三〇億円)に近い予算を支出する。)。

(2) 学校施設を建設し、相当期間にわたって、それらの支払を行うことができるようにするために、土地に担保を設定することができる必要がある。

(3) 新しい学舎が使用できるようになるまで待つことなく、今から授業を始めるためには、校舎建設までの二、三年間使用することができる建物が必要である。

(三) これに対し、USIU日本校の設立予定地となった被告岸和田市としても、その誘致を決するために、次のような検討を行った(甲二一七)。

(1) 大阪府から被告USIUに関する資料(甲五七、丙七、八の各1及び2)を入手し、これによれば、被告USIUのレベルは、米国においても上位一〇パーセントに入る名門の大学とのことであった。

(2) 昭和六三年八月末ころ、被告USIUと交渉の任に当たっていた大阪府担当者を市議会(コスモポリス懇談会)に招き、その交渉経過や将来の展望について説明を受けた。

(3) 昭和六三年一〇月二五日及び翌二六日、市議会(コスモポリス地域整備特別委員会)を、愛知県小牧市(オハイオ大学の誘致を進めていた。)と新潟県中条町(南イリノイ州立大学を既に誘致していた。)を視察し、前記「丸抱え」の問題点について検討した。

(4) 財務調査としては、右(3)の視察後、被告USIUに対し、資産と負債の関係を尋ねたところ、負債一に対し資産は五である旨の返答を受け、平成元年には、右返答を裏付ける資料(丙九の1及び2)も入手した。

(5) 更に、昭和六三年一一月二三日、被告USIUの本校を視察した際、当時の学長、理事会、教授会のメンバーと意見交換を行い、また、日本からの留学生とも会って、感想を聞くなどした(甲一三〇)。

(四) しかし、被告岸和田市は、前記(三)記載の調査以上に、例えば、米国大学に詳しい専門家に対する意見聴取、日米教育委員会(甲一五五)を利用した調査、会計専門家による資産面の検討、入学案内記載の顧問就任の真偽の確認等までは行わなかったこともあって、同被告の市議会や関係委員会において、昭和六三年ころから、被告USIUの誘致に関する議論がなされた際、右誘致に対する慎重論の意見も出されたが、これを否定しさるまでの積極的な資料が示されるには至らなかった(甲一九一、一九二、一九七、一九九ないし二〇一、二一四)。

(五) なお、基本協定(甲一四二)については、その原案は大阪府が中心となって作成したものであり、基本契約(甲一四三)についても、その締結に当たっては、大阪府と共に、被告USIUから、大学の建設計画及び運営計画についての提供を受け(甲二〇一の61頁。これに対し、原告らは、右認定に沿う証人上路の証言が基本契約上の条項と矛盾するとして、同証言の信用性を争うが、右条項は、「USIU日本校の恒久的施設」についての段階的な建設計画の提出を要求するものにすぎないのであるから、前記認定を妨げるものではない。)、その締結時期がUSIU日本校開校後となったのも、用地の引渡時期に関する見解の相違があったことから、この点の合意に達するために時間を要した結果にすぎなかった。

2  被告岸和田市の対外的な対応等

(一) 被告岸和田市は、昭和六三年一二月一〇日にUSIU日本校開校の新聞発表があった後から(甲二ないし七)基本協定締結時までの間、学生募集に関する問い合わせの電話に対し、当時の客観的状況を説明したにとどまり、また、USIU日本校事務局が開設されるまでの間、同校に関するパンフレットを希望に応じて配付したこともあったが、被告岸和田市がこれを積極的に行ったものではなかった。

(二) 被告岸和田市は、同市にUSIU日本校が誘致されたことから、平成元年一月、市の広報紙である「広報きしわだ」(甲一四五、一四六)にその旨を掲載したことがあり、また、被告USIUの要請に応じ、高校の進路相談窓口に配付する目的のために、USIU日本校誘致をその内容とする「ごあいさつ」と題する書面(甲一三四)を作成したが、被告岸和田市から、直接これを高校へ配付することはなかった。

(三) 被告岸和田市は、平成元年一月一八日、府政記者クラブ及び岸和田記者会に対し、「米国国際大学の岸和田市への誘致について」と題する書面(甲一四四)を配付したが、その記載内容については、大阪府及び被告USIUとの間でも確認済みであった。

(四) 被告岸和田市のUSIU日本校誘致担当者の一人であった上路は、被告USIU(同日本校事務局)の依頼に応じ、その受験説明会に出席した際、USIU日本校においては、他の米国大学と異なり、その経営や授業ブログラムについては、被告USIUが主体となって行う旨を説明し、被告USIU側も、USIU日本校が被告岸和田市の誘致を受けた、暫定校舎とキャンパス用地については、無償提供を受けることなどを説明していたが、それ以上に、被告岸和田市から全般的な財政援助を受けるとか、大学経営について同被告も参加するなどといった説明は一切なく、むしろ、日本で既に開設されていた米国大学と異なる特色として、米国の本校が直営する大学である旨を強調していた(甲四八の9頁、二二〇の18丁、二四一の191項以下。)

3  USIU日本校開校後における被告岸和田市と被告USIUとの交渉

(一) 被告岸和田市は、USIU日本校開校後、その学生の人数、教師の資格、事務局の構成等の日常的な運営状況について、被告USIUから、その都度報告を求めていたが、これは、正常な教育活動が運営されているか否かを確認するためのものであり、特に平成元年度入学者数が当初の募集人員を大幅に超え、教室数が足りなくなり、教室を二分して使用するなどしていたことなどから、被告USIUに対し、信頼を裏切るようなことをなすべきではない旨の注意を与えたものの、同被告からは、入学者数については、入学時の学生アンケートに際し、一年後に海外校への編入を希望する者が約半数いたことから、これを受け入れた旨、又は、入学辞退者がもう少し多く出るものと考えていた旨の返答が、教室の使用形態についても、その後改善した旨の返答がそれぞれあったため、被告岸和田市としても、平成二年度学生募集の際に学校として適正に機能を発揮できる形で対応するように注意したにとどまった(甲二四三)。

(二) 被告岸和田市は、被告USIUに対し、学校法人化の関係もあって、図書館の整備等について要請したこともあったが(甲二四三)、少なくとも平成元年度春学期の段階では、右図書館は全く整備されていなかった(甲二四一の227及び228項)。

(三) 被告岸和田市は、平成元年九月八日、その市議会において、USIU本校の経営悪化に関する質問がなされたことから、被告USIUに対し、その釈明を求めたことがあったが(甲二〇四)、同被告からは、そのような心配はない旨の返答があった。

(四) USIU日本校は、被告USIUの指示により、その入学金等同校学生から徴収した金員を本校に送金したり、その後、一旦返還されたものを再度送金したこともあったが(甲二二〇、二二三ないし二二五)、被告岸和田市は、後日、各年度の収支計算表を入手して右事実を知るにとどまった。もっとも、被告岸和田市は、右送金の事実を知った際には、将来のUSIU日本校のために活用するように勧告したことはあった。

また、被告岸和田市は、USIU日本校に対し、早くUSIU東京校との関係を分離してほしい旨の指導を行っており、同校は、大阪府からも、同様の指導を受けていた(甲一二〇の4頁)。

(五) 被告岸和田市は、平成二年五月二一日、被告USIUから、WASCの「認定」を巡る作業についての進行状況の報告を受けた(甲一二九)。

(六) なお、被告USIUが、被告岸和田市に対し交付した書面(甲一二六は、甲斐田の訳したものである。)は、次のような説明があった。

(1) 被告USIUは、WASCから、その定める大学運営基準との矛盾を指摘され、これを改善してきた結果、一九五六年から過去三八年間にわたり、WASCから認定を受け続けてきた。

(2) WASCの最近の視察は一九八九年(平成元年)三月のことであったが、その際、WASCは、被告USIUの管理、経営、そして、大学運営を支えるアカデミックな領域における多数の矛盾点を指摘し、被告USIUを「SHOW CAUSE」という認定における特殊な範疇に置く旨を決定した。

(3) 「SHOW CAUSE」の意味するところ。被告USIUが一九九一年(平成三年)三月までに、右(2)記載の矛盾点をできる限り改善したことを明らかにしなければならず、そうでなければ、WASCが被告USIUのアカデミックプログラムに対する認定を取り消すことになる。

(4) 被告USIUは、右矛盾点の改善のために、大学指導者の交代、新たなプログラムの開始、一九九〇年(平成二年)一〇月二日から同月四日までの間に訪問するWASC視察団に対する準備等の努力を払っている。

(5) 被告USIUは、次回の視察団が、被告USIUの改善を認め、今後もWASCの認定が継続されることを確信している。

二1  原告らは、被告岸和田市が被告USIUの共同事業者であることを前提として、種々の注意義務違反を主張するので、まず、この点について判断するに、両被告間の明確な合意を記した基本契約は、被告USIUが同日本校の経営主体であることを前提としていたばかりか、被告岸和田市がその管理経営責任を負わない旨まで明記されているところであって、誘致すべき大学の選択に関する経緯に照らしても、これ自体、大阪府の主導によるところが大きいが、被告岸和田市もこれに沿って、地方公共団体が共同事業者となることを前提とする誘致では、その財政面等の負担を重くすることから、むしろこれを回避しようとした結果、被告USIUを選択したものであって、その後の対外的対応等においても、誘致した関係上、種々の便宜を図ってはいるものの、その経営主体としては被告USIUのみであることが、被告岸和田市のみならず被告USIUからも一貫して説明されていたところであり、USIU日本校の誘致からその閉校に至るまでの被告岸和田市の被告USIUに対する種々の働きかけ等において、共同事業者たる地位に基づくような経営者的言動は一切窺われず、他に被告岸和田市が共同事業者であることを推認させるような事情も認められないのであるから、結局、被告岸和田市は、誘致者たる地位にとどまり、その共同事業者ではないというべきである。

したがって、原告らの前記主張は、その前提を欠き、採用することができない(なお、被告岸和田市は、右のとおり被告USIUの共同事業者たる地位を有するものでないが、仮に、原告らが、被告岸和田市が被告USIUの共同事業者たる地位を有すると否とに係わりなく、前記主張に係る義務があるとするものであるとしても、前記認定によれば、被告岸和田市は、行政上の施策の一環としてUSIU日本校を誘致したにとどまるというべきであるので、かかる地位にある被告岸和田市としては、原告主張の前記各義務ないし注意義務を負担するといえるか疑問があり(なお、原告らの、被告岸和田市の宣伝による誘致に係る事業計画実現の保証責任を負うとの主張は明らかに主張自体失当である。)、この点をひとまず措いても、前記認定によれば、被告USIU岸和田市は、USIU日本校の誘致の決定以降、同校の閉校に至るまでの間、適宜、指導勧告等を行っていたということができるので、原告らの前記主張は理由がないことが明らかである。)。

なお、原告らは、「公の支配」に属する教育事業に対する公金支出の観点から、被告岸和田市にはUSIU日本校開校後の資産管理に関する指導監督義務違反があった旨も主張するが、被告岸和田市は、適宜、指導勧告を行っていたものということができるから、右主張は、採用することができない。

2  なお、原告らは、被告岸和田市と被告USIUとの共同不法行為責任も主張するので、この点についても判断する。

(一) 民法七一九条一項前段について、原告らの主張する被告岸和田市と被告USIUとの関連共同性も、被告岸和田市が被告USIUの共同事業者であることを前提とするものと解されるから、この点に関する原告らの主張は、前記1で判示したところから明らかなように、その前提を欠き、採用することができない。

(二) 民法七一九条二項について、原告らは、被告岸和田市の「教唆」として、同被告が被告USIUを積極的に誘致して開校の意思決定をさせたことを主張するが、本件において、閉校自体が違法であるということはできないというべきであるから、その言わんとするところは、教育方法の不十分な学校としての、また、暫定校としての開校等を意味するものと解されるが、開校に当たり、いかなる教育方法を採用するかは、全てその経営主体たる被告USIUのみに委ねられ、他者の干渉を許すものではなかったのであるから(被告岸和田市としては、せいぜい事後的に指導勧告等をなしえたにすぎない。)、また、いかなる学校形態を採るかについても、確かに、暫定校としての開校は基本協定上に定められたところではあるが、右原案の作成も大阪府が中心となったものであり、被告岸和田市の関与する以前に既定の方針となっていたともいえるのであるから、原告ら主張の被告岸和田市の「教唆」の事実は認めることができない。

また、原告らは、被告岸和田市の「幇助」として、同被告が種々の助言、助力を行って被告USIUの不法行為の実行を容易ならしめたことを主張し、被告USIUの不法行為は、虚偽の表示及び説明並びにUSIU日本校閉校の点について、既に判示した限度で認められるが、入学案内等における表示及び説明も、その教育内容に係わるものであり、右同様に、その経営主体ではない被告岸和田市が事前に関与しえなかったところであって、USIU日本校の閉校についても、被告岸和田市は、むしろ同校の存続に向けて助言、助力していたものといえるのであるから、原告ら主張の被告岸和田市の「幇助」の事実も認めることができない。

(三) したがって、この点に関する原告らの主張も採用することができない。

三  以上によれば、原告らの被告岸和田市に対する請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。

第六  争点5(原告らの損害)に対する判断

一1  まず、原告番号1ないし24の原告らについて、受験料二万円及び入学金三〇万円納入の事実は、同原告らがUSIU日本校を受験及び入学したことから、また、授業料一三九万円(ただし、平成元年度及び平成二年度分。平成元年度分の授業料は七〇万円であるが、平成二年度分の授業料は、登録料名目で一万円減額された結果、六九万円である。)及び施設費三〇万円(平成元年度及び平成二年度分)納入の事実も、USIU日本校事務局口座への振込の事実(甲二二四)から認められ、又は、同原告らがUSIU日本校において受講し、授業料未納の場合は退学とみなされるにもかかわらず(甲九〇、九七)、被告USIUから、平成二年度終了時に、同三年度春以降の進路希望状況の調査を受けていること(甲一二九)から推認することができる(その金額については、甲四七、八一、九七。)。

これに対して、平成元年度入学生中、何らかの理由により授業料の免除を受けた者がいた事実は認められるものの(甲一六三、二四一の295項)、入学に際しては授業料を支払うのが通常であり、免除は例外的なことであって、同原告らが右免除を受けたことを窺わせるような証拠も存しないのであるから、前記推認を妨げるものではない。

2  原告番号25ないし35の原告らについても、受験料二万円、入学金三〇万円、授業料八〇万円及び施設費一五万円納入の事実も、前記1同様の理由により、これを推認又は認めることができる(その金額については、甲六三、一〇〇)。

二1  次に、原告らは、その損害として、受験料、入学金、授業料及び施設費の全て(原告番号1ないし24の原告らについては合計二〇一万円、同25ないし35の原告らについては合計一二七万円。)を主張した上、その余の財産的損害を含む精神的損害(原告番号1ないし24の原告らについては慰藉料三〇〇万円、同25ないし35の原告らについては慰藉料二〇〇万円。)をも主張するので、これを全て相当因果関係ある損害ということができるかについて判断する。

確かに、学校教育の本質的要素ともいうべき教育方法について、被告USIUの表示及び説明と実態との間にかなり大きな齟齬があったこと、USIU日本校自体が閉校し、同校における今後の継続した受講が不可能となり、被告USIUが採った代替措置も、各原告の実際のESOLコース修了状況に照らすと、せいぜい一部の者にとって恩恵を与えるにとどまること等に照らすと、原告らの前記主張を肯認しうるかのごとくである。

もっとも、教育スタッフについては、原告らの希望を充足するに足りなかったとはいえ、教育現場にあるUSIU日本校教師の努力において可及的に充実した授業が実施され、同校教師の資格の点についても、英語教育に関する限り、比較的有資格者が存すること(甲二四二)、平成二年度においては、クラス分けなど教育方法に関する齟齬も、完全とはいえないまでも、かなりの程度の改善をみたこと等に照らすと、原告らの財産的損害もせいぜいその一部にとどまるものといわざるを得ず、しかも、その支出した受験料、入学金、授業料及び施設費のうち、いかなる割合において相当因果関係を有するかは、必ずしも明確にしえないというべきであるから、原告らの前記主張を直ちに採用することはできない。

2  しかしながら、原告らは、明示的には、前記財産的損害以外の財産的損害をも含む包括慰藉料を主張するものの、黙示的には、一切の財産的損害を考慮した精神的損害をも主張するものと解されるのであるから、本件においては、慰藉料のみを認め、その算定に当たり、財産的損害の存在を斟酌するのが相当である。(損益相殺も、その趣旨を慰藉料算定に当たって考慮するにとどめる。)。

3  これを本件についてみるに、慰藉料算定に当たって考慮した主たる事情は次のとおりである。

(一) 既に判示したとおり、USIU日本校において実施された教育の本質的要素には、その表示及び説明したところと実態との間に大きな齟齬があったことは、慰藉料算定に当たり、重視されるべきである(この点、平成元年度入学生は、平成二年度入学生に比して、右の点についての齟齬が大きいので、この点は、両者の慰藉料額を算定するに当たり、考慮されるべきである。)。なお、この点、原告らが実際に享受したESOLコースの受講も、被告USIU独自のカリキュラムであって、これを受講したからといって、一般に通用しうる資格を授与するものではないから、同カリキュラムを途中まで履修したことをもって、直ちにその慰藉料を減額すべき事由とすることはできない。

もっとも、原告らは、等しく米国大学への進学を目指していたものであって、英語力の養成が不可欠なものであり、実際上、USIC日本校からUSIU海外校へ編入した学生も存することに照らすと、同校におけるESOLコースの受講も一定の貢献を果たしえたということができ、これを全く無意味なものと評価することもできない。

(二) 次に、学校法人化の点は、原告らの真に意図する米国の大学への進学卒業という目的にとっては、同大学が日本においていかなる法人格を有するかは重大な関心事であるとはいえないものの(証人今西洋子の証言(第一三回口頭弁論調書速記録二八丁表)参照)、キャンパス、顧問等の点については、被告USIUが信用ある大学であるとの期待を裏切るものであって、右期待を裏切られた原告らの精神的苦痛も決して看過しえないところである。

(三) 更に、USIU日本校におけるESOLコースの今後の継続した受講という利益も、留学に当たっては、新たに少なからぬ出捐が必要となることを考えると(別紙「一九九一年度学費納入一覧表」(甲一八四)参照)、考慮に値するものといえ、特にESOLコース受講の利益は、同コースの学生である原告らにとって、その享受が確実であったことは慰藉料算定に当たっても重視されるべきではある。

(四) これに対し、原告らの教養学部(教養課程)及び専門学部への進学並びにその学位(卒業資格)取得の各可能性という利益については、確かに、ESOLコースが英語力不足の学生にとってこれをまず履修することが義務づけられ(甲四八、六四、六五)、その学部への進級及びその卒業を離れては特段の意味を有するものではなく、実際にも、本件原告らが、被告USIUの学部への進級のために同コースへ入学し、学部の履修及びその卒業の期待を抱いていたことは明らかであるから、その相当因果関係自体を否定することはできないものの、USIU日本校の教育プログラムによれば、教養学部(教養課程)に進級するためには、そのためのEPTテストに合格するか、ESOLコースを修了することが条件となり、右条件が成就されない限り、同校における教養学部(教養課程。専攻課程への進級は、さらにその後のことになる。)の履修及びその卒業という利益も享受しえないという意味では、ESOLコース入学生に対する関係で、右利益はESOLコース受講の利益ほどに確実なものではないところ、本件においては、確かに、入学案内(甲四八、六五)中には、ほとんど全員の学生がESOLコースを修了しうるかのような記載もみられるものの、右記載は学生の高度の出席率にも言及するばかりか、各原告の実際のESOLコース履修状況も前記認定の程度にとどまり(全分野についてESOL一〇〇を履修していた原告も若干存するが、右コースを既に修了したとまでは認めるに足りない。)、より上級のクラスほど、その難易度も高くなること(被告USIUの主張によれば、ESOL一〇〇は、英語検定準一級から一級の実力を有する者が勉学するコースとされている。)等に鑑みると、全員について同コースの修了が確実なものとまではいえず、いわんや専門学部への進学可能性については、USIU日本校における設置学部の予定は極めて限定されたものと表示され、各原告の希望と一致するものか否かは必ずしも明確ではなく、その学位(卒業資格)取得の可能性に至っては、更に抽象的なものにとどまるといわざるを得ないのであるから、原告らの同校における教養学部(教養課程)及び専門学部への進学並びにその学位(卒業資格)取得の各可能性という利益は、比較的希薄なものというべきである。

なお、被告USIUがUSIU日本校の閉校に伴い採った代替措置は、平成二年度終了時の各原告のESOL履修状況に照らすと、極めて不完全なものというべきであり、また、被告岸和田市により就学資金の貸付斡旋制度が創設され、一〇〇名の利用者が存した事実は認められるものの(丙一二ないし一五)、原告らにおいてこれを利用した旨の主張立証もないのであるから、右各制度の創設は、原告らの慰藉料算定に当たって過大に評価することはできない。

(五) USIU日本校が平成三年六月一四日閉校となったことにより、原告らのUSIU日本校における一年三か月ないし二年三か月の間の就学が事実上無意味なものとなり、その結果として、右の期間、回り道を余儀なくされたこととなるなど、原告らが被った損害は多様な分野に及び、その精神的苦痛は大きいものがあるということができる。

4  右のような事情に、その他諸般の事情を総合すると、原告らの慰藉料としては、平成元年度入学生である原告番号1ないし20及び22ないし24の原告らについて各一八〇万円、原告番号21の原告(山本直也)について一五〇万円(原告番号21の原告についても、平成元年度入学生として、被告USIUから、他の同年度入学生と同様の表示及び説明を受け、これと同額の金員を出捐したものと推認することができなくはないが、右原告は、平成元年九月に入学し、他の同年度入学生と比較して、その入学時期が四か月ほど遅れており、同原告に関する特段の主張立証のない本件においては、右入学遅延の理由は明確でないものの、そもそも、右期間の就学の利益を享受していなかったのであるから、同原告は、他の平成元年度四月入学生とは別異に取り扱うのが相当である。)、平成二年度入学生である同25ないし35の原告らについて各金一二〇万円、その弁護士費用としては、原告番号1ないし20及び22ないし24の原告らについて各一八万円、同21の原告について一五万円、同25ないし35の原告らについては各一二万円が相当である。

第七  結論

以上によれば、原告らの請求は、右の限度で理由がある(なお、遅延損害金の起算日については、USIU日本校が閉校となった日である平成三年六月一四日とする。仮執行宣言については、相当でないから、これを付さないこととする。)。

(裁判長裁判官中路義彦 裁判官森宏司 裁判官田中秀幸は、転補のため、署名捺印することができない。裁判長裁判官中路義彦)

別紙〈省略〉

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